犬の皮膚肥満細胞腫の新分類

肥満細胞腫

[写真] 犬の皮膚肥満細胞腫(Patnaik grade Ⅲ)

参考にした文献  Proposal of a 2-Tier Histologic Grading System for Canine Cutaneous Mast Cell Tumors to More Accurately Predict Biological Behavior  Veterinary Pathology 48(1) 147-155 (2011)

肥満細胞腫は、免疫を担当する「肥満細胞 mast cell」由来の腫瘍です(決して肥満の動物にできる腫瘍ではありません!)。この腫瘍は、犬の皮膚腫瘍全体の2割を占める、とてもありふれた腫瘍です。犬や猫を主な対象とする獣医病理診断医にとっては、毎日遭遇する腫瘍と言っても過言ではありません。

肥満細胞腫は、他の多くの腫瘍と同様、比較的容易に治療可能なものから制御困難で死をもたらすものまで、様々な悪性度を示します。犬の皮膚肥満細胞腫の臨床的悪性度を、顕微鏡所見によって決める試みがこれまでに行われていますが、1984年に提唱された「Patnaikの組織分類」が現在多くの国で主流になっています。Patnaik分類では腫瘍細胞の形態、分裂頻度、細胞密度、腫瘍形成部位(真皮にとどまっているか、皮下組織に及んでいるか)、間質の反応を指標にしています。

ですが、Patnaikの分類は診断医によってかなりばらつきがあるのと同時に、必ずしも腫瘍の臨床的挙動に相関していないのではないかという疑問が常にくすぶっていました。Patnaikの組織分類は3つのカテゴリー(グレードⅠが良い方、グレードⅢが悪い方、Ⅱは中間)から成っていますが、これを2つに簡潔化して腫瘍の臨床的挙動との相関を調べたのがこの論文です。

新しい「2段階分類」では腫瘍細胞の形態を重視しており、高倍率10視野あたり7個以上の分裂像、高倍率10視野あたり3個以上の多核(3個以上の核)腫瘍細胞の出現、高倍率10視野あたり3個以上の奇怪形状核の出現、全体の10%以上の腫瘍細胞が巨大核(他の核の2倍以上の大きさ)を持つ場合、といった複数の項目のうちの一つでも当てはまれば、悪性度の高い「ハイグレード」としています(それ以外はローグレード)。

この論文の結論は、2段階分類はPatnaik分類よりも的確に肥満細胞腫の悪性挙動を占うことができた、というものでした。病理診断医にとっても、グレードの数が3から2に減り、判断基準も明らかなため、診断のばらつきが大幅に改善されていました。

新しい分類法は欧米の資格をもった獣医病理診断医28名によって提唱されたものですので、これを直ちに今日から日本でも使いましょう!と言えるほど広くコンセンサスが得られているわけではありません。グレードと治療法の選択肢についても、情報がほとんどありません。しかし、私も日頃Patnaik分類の使いづらさ、臨床獣医師へのメッセージの伝えにくさを感じていますので、近い将来、この新しい分類を犬の皮膚肥満細胞腫の診断に反映させようと考えています。