学会に参加して③ポスター紹介(最終)

いつもお世話になっております。

本日は2014年最初の死後検査の出張がありました。通算36症例目です。獣医病理診断医として皆様にお役に立てることがあれば、今年も惜しみなくやっていきたいと思います。

さて、昨年11月に参加した米国獣医病理学会のポスター会場で、ペンとノートを手に全てのポスター(200以上?よくわかりませんが、2時間くらいかかりました)を審査員さながらに見て回り、メモした中から紹介するコーナーも、今回で最後です。実は日本の獣医大学からもいくつかポスターが発表されており、優秀賞を受賞していた先生もいらっしゃいました。日本人として、とても嬉しかったです。欲を言えば、もっと多くの日本発の獣医病理のポスターや口演が、世界の専門家や学生さん達にインパクトを与えるようになれば素晴らしいと思います。かくいう自分も、今年は学術発表を自分に課します。

<気になったポスター発表⑤ Characterization of the tumor spectrum arising in HZE ion irradicated outbred mice. (高電荷高エネルギーイオンを照射された非近交系マウスに発生する腫瘍の種類の特徴)>

・コロラド州立大学とアメリカ航空宇宙局(NASA)の共同研究です

・来るべき宇宙時代(宇宙で人が当たり前に生活する時代。果たして何年後?という気もしますが)に備えて、宇宙空間で浴びる高電荷高エネルギーイオン(HZE)が生体にどのような影響を及ぼすのか、特に、腫瘍を誘発したり、特定のタイプの腫瘍が増えたりするのかどうかの基礎的なデータ収集が行われています

・この発表によれば、HZEよりもガンマ線を照射したマウスの方が生存期間が統計的に短かったそうです

・また、HZEは肝細胞由来の良悪の腫瘍を起こすことが多かったのに対し、ガンマ線はリンパ腫を起こすことが多かったとのことです

・未知なる環境に挑戦して生存範囲を広げてきた我々生物ですが、ついに宇宙まで完全に視野に入ってきているのだなあと感じた、スケールの大きな内容でした

・日本では?我がJAXAと獣医病理関係者の夢のコラボは実現するのでしょうか???

<気になったポスター発表⑥ Histologic characterization of catecholamine-induced cardiomyopathy in dogs with pheochromocytomas. (褐色細胞腫(副腎髄質由来の腫瘍)罹患犬におけるカテコールアミン誘発性心筋症の組織学的特徴)>

・獣医腫瘍学の一大拠点であるコロラド州立大学からの発表です

・アメリカで獣医病理の研修を受けてきた身からすると、カテコールアミン(アドレナリン等を含むホルモンの総称)と聞くと、(おそらくフリーラジカルによる傷害や、カルシウムイオンの細胞質への流入を介した)心筋細胞や骨格筋細胞のダメージを思い浮かべます。それを敢えて「心筋症」と呼んでいることに違和感を覚えました。獣医病理学のバイブルである Pathology of domestic animals には、そんな記載はないからです

・念のため人の病理学のバイブル(?)である Pathologic basis of disease, 8th edition を調べてみると、ヒトでは急激な感情的あるいは身体的ストレスの際に、catecholamine cardiomyopathy(カテコールアミン心筋症)と呼ばれる急性うっ血性心不全が起こると記載されています。そういう概念が存在するということを知り、得した気分です

・褐色細胞腫はカテコールアミンを産生する細胞の腫瘍ですので、一段とこのような事態が生じやすくなっていると言えます

・弊社の死後検査でも時々、これといった肉眼的・組織学的特徴がどの臓器にも見当たらず、あっても軽度の肺水腫や心筋細胞の控えめなダメージくらいで、死因の特定に苦慮する症例がありますが、それらはたいてい「突然死」であり、おそらく急に興奮するなどしてカテコールアミン心筋症が起こったのかなあと推測したくなります

・ホルモン産生性腫瘍は時として、そのホルモンが生体に及ぼす効果を際立たせます。そういった異常からも、学ぶことが多くあると気づかせてくれたポスターでした

以上です。今年も初冬のACVP学会に参加する予定でおります。日本の獣医病理関係者の皆様にも是非、早くから予定と予算の確保をお勧めいたします。

では、またね!
では、またね!

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