今年も小学生にタジタジ

いつもお世話になっております。今シーズン初めて積雪が数センチになった今日の東京でした。

本日は昨年に引き続き、多摩地区のとある小学校の4年生2クラスに、「命」について自分なりに伝える出張授業をしました(高校の同窓生がその小学校で教員をしているツテです)。子どもたちが命について生々しい体験が少ないのは、特に悲観すべきことではない、たまたまそういう時代だからと言えなくもありません。ですが、私のように動物の死が仕事のメインテーマというのもあまりないことと思いますので、このちょっと変わった経験を話すことで子どもたちの視野が多少広がることを期待して訪問しました。題材は昨年と全く同じです(過去のブログ参照)。今年もみな顔をそむけたりしながらも最後まできちんと聞いてくれて、最後は質問のオンパレードとなりました。「動物の病気は全部で何種類あるんですか」「一番怖い病気はなんですか」「(解剖の)仕事をしていて嫌になることはありませんか」といったあたりが手ごわかったです。私としては、今は「丁寧に調べて学べば、命は個体や時間を超えてつながるものだ」ということを意識して毎日やってますが、そのうちこの考えも変わっていくかもしれません。命についての自分の思いは、少しずつ変質している気がします。子どもたちと大して変わらんなあと思いつつ、午後は組織診断、夜は79症例目の出張剖検をして、車が走れなくなるほど雪が積もらなくてよかったと感謝しつつ帰宅しようと思います。

寒さ本番ですが、皆様くれぐれもご自愛ください。

顕微鏡で見える病変を説明中

顕微鏡で見える病変を説明中。

質問攻めにあっているところ

質問攻めにあっているところ。

授業の後、検体集荷に東京農工大学農学部へ

授業の後、組織病理検体を集荷に東京農工大学農学部へ。道路の雪は幸い融けていました。

学会参加報告②

 いつもお世話になっております。

 楽しみにされていた方(いない?)、お待たせいたしました。昨年11月に参加した米国獣医病理学会(於:ジョージア州アトランタ)の参加報告の第2回です。

 毎年本学会では3日間の学会期間の前後に複数のワークショップが開かれ、世間で話題になっている「ホットな」疾患や診断関連技術を始め、病理診断医・研究者の知識の整理と今後の戦略作りに役立つ様々なトピックが取り上げられます。特に学会が始まる前日のワークショップは1日がかり(約8時間)の長丁場で、聴講者の興味に合わせて3~4のトピックが用意され、いずれかを選んで参加します。今回私が参加したImage science in the 21st century: opportunities for pathology investigation and diagnostics(21世紀における画像科学:病理学の研究と診断のための活用機会)というワークショップでは、8名の講師が各自の専門分野について語る形式でした。200ドルの参加費が安いと思えるほど充実した内容でした。

 病理学においては、個体、臓器、細胞の形態をつぶさに観察して診断や研究をするのが基本です。このため「形態学」という呼び方をされることがあります。個体や臓器は肉眼で見ることができますが、細胞の観察には顕微鏡が用いられます。画像科学 image scienceは、顕微鏡そのものを目的に合わせて改良したり、顕微鏡によって捉え保存された画像情報を処理・融合することで、今までよりも効率的に検査を行ったり、今までは捉えることのできなかった生命現象を形態学的に示したりしようという学問分野(のよう)です。概念としてわかっていることでも、実際に目で見ると信ぴょう性が格段に向上するものですし、逆に、目には見えるが説明のつかない現象に後世になってようやく妥当な説明ができるようになることもあります。昨今は分子生物学に代表されるように、目で見えないレベルの生命現象の研究が脚光を浴び、研究予算が優先的に振り分けられているようですが、形態学にもまだまだ研究、発見のポテンシャルがあります。再生医療においても形態学は大きな力を発揮すると個人的に思っています。

 今回のワークショップの各講演者の題目と、簡潔な内容や感想を以下に述べます。獣医師は1名のみで、他の7名は医師および/あるいは博士であり、物理学やコンピュータ科学の内容が多く含まれているために英語を聞いてもさっぱり理解できないという時間が長かったです。そんな時は、配布資料を読みながらようやく話に付いていきました。

Cellular imaging basics(細胞画像化の基礎) by Dr. Balis:光学顕微鏡の発明と発展の歴史、顕微鏡の原理、デジタル写真の著作権や改竄、最新の顕微鏡技術等について、丁寧に説明していました。毎日何気なく、原理について考えることもなく仕事に使っている顕微鏡の来し方行く末を見ることができました。物理的に越えがたい制限がこの機器にはあるようですが、新しい技術でそれを乗り越えようと、研究が今も活発に続いているようです。

Whole slide imaging(組織切片の全画像化) by Dr. Hewitt:「1875-1950年は古典的組織学、1950-2000年は免疫組織化学(免疫染色)、2000年から現在は分子病理学と定量病理学」ということで、高性能スキャナーで組織切片(プレパラート)の全領域を読み取り、コンピュータソフトの力を借りて組織における様々な計測が可能になりつつあります。ただ、未だに組織切片は人の手で作られ、観察・評価は人が行うので、スライドの画像化は「革命的」なものではない、もっと可能なことの幅を広げるべきではないかという提言が印象的でした。

Registration, segmentation, and feature extraction: translating human knowledge to computer language(登録、区分け、特徴抽出:人の知識をコンピュータ言語に翻訳する) by Dr. Toth:演者は画像解析の会社を起業したばかりの若い男性で、医学や獣医学の背景はないのですが、それが逆に、組織切片上の形態情報(一個一個のピクセルの濃淡や色)を、0と1から成るコンピュータ言語に落とし込んでいく過程の説明をわかりやすくしていました。私としては、彼の会社が弊社と同じLLC(limited liability company、合同会社)であることに親近感を覚えました。起業が活発なアメリカ社会では、先端技術の実用化にトライする若武者が多くいる気がします。

The role of the pathologist in an image analysis team(画像解析チームにおける病理医の役割) by Dr. Aeffner:画像解析やそれによるビジネスは”game changer(大改革をもたらす物事や人)”だと、この演者を含む何人かの演者が言っていました。今まで人が組織標本を眺めて一生懸命細胞を数えたり組織構築を評価したりしていたものを、専用のコンピュータソフトは一瞬で客観的なデータとして出力してくれます。一見すると病理医の仕事がなくなってしまいそうですがそんなことはなく、診断や計測の「あうん」の行程、ソフトの開発やメンテナンスには人が関与しなくてはならないことがまだまだ多くあるという、ホッとする内容でした。

The quantitative analysis of labels(標識の定量分析) by Dr. Levenson:従来の免疫染色では抗原抗体反応を可視化するために酵素による発色という行程を用いているため、抗原の分布や量を常に正確に示すことができず、背景に非特異的な反応が起こってしまうこともよくあります。また、異なる抗原の分布を同一の標本内で示したくても、技術的な制約によりせいぜい2種類の抗原についてしか調べられません。利用価値の高い免疫染色をもっと有用にするために、新しい手法が試されています。抗体に発色物質や蛍光物質ではなく元素金属を付けて検体に反応させ、二次イオン質量分析を用いて陽性反応を可視化することで、理論上は同じ組織内で同時に100種類の抗原の分布を調べることができるとのことです。細胞の由来や機能がよくわかるようになれば、生物学がまた大きく発展することでしょう。願わくは、こういった技術が安価に、手軽に使えるようになることです。

Novel optical imaging methods(新しい光学画像技術) by Dr. Hard:顕微鏡で観察する対象には振幅物体(色付きの物体。例えば染色された切片や塗抹など)と位相物体(色のない、生きている細胞)があるという話から始まり、2014年のノーベル化学賞を受賞した超解像度の蛍光顕微鏡まで、最先端の生物学研究を支える最先端の光学画像技術の紹介でした。 

HistoCAD in the predictive modeling of outcomes(疾患転帰予測モデルにおけるHistoCAD) by Dr. Doyle:HistoCADとはmachine facilitated quantitative histoimaging with computer assisted diagnosis(コンピュータ援用診断を付随する機械促進型定量画像技術)のことで、本ワークショップのオーガナイザーであるニューヨーク州立大学バッファロー校のTomaszewski博士が開発に関わっています。講演者はその教え子で、腫瘍の組織切片を機械が評価して予後判定まで行うシステムを開発中です。病理診断医は生身の人間ですので、診断には様々なマイナス要素(疲れ、主観、標本作製の不備等)が関与します。人件費もかかります。そのような要素を排し、黙々と瞬時にある程度の診断を行えるようなシステムが開発されているわけです。病理医の減少、高齢化は、いずれ多くの国で顕在化してくるでしょうから、このような研究も必要なのでしょう。

Integrated diagnostics and data fusion across scale(垣根を越えた診断法の統合とデータの融合) by Dr. Tomaszewski:組織病理検査の結果をレントゲン検査や遺伝子検査といった他の検査の結果と統合し、データを融合させることで、personalized medicine(いわゆるオーダーメイド医療)に貢献できるのではないか、という提言をしていました。彼らは医者で、人を対象にしているわけですが、獣医師も動物に対して根拠のあるオーダーメイド医療を施すようになるのかもしれません。こういった技術のもう一つの重要な目的は、診断がbetter, faster, cheaper(より正確に、より早く、より安く)できるようになることですので、現在のような試作段階から、量産期、普及期に移るにはまだまだ時間がかかりそうです。

 獣医病理関係者のための学会で、今回のような豪華な複数の講師が最先端の話を披露するというのは、アメリカならではの未来を見据えた取り組みと言えると思います。この分野への、獣医人材の参加をもっと求めているのかもしれません。画像解析そのものは日本でも優れたソフトがありますし、研究に用いている方々も多く見かけます。ですがその先の、人に役立つ診断マシーンの開発といった、社会的かつビジネス的な視点を持っているのがどうかが、日米の差としていつも感じられます。

 2015年の学会でもワークショップに参加する予定ですが、今度はどんなトピックが用意されているのか、今から楽しみです。

 次回、第3回の学会報告では、ポスターや口演で印象に残ったものについて触れたいと思います。是非お楽しみに。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

JaGAのご紹介

冬本番、寒い日が続きます。

さて、米国で獣医病理学の体系的な勉強をし、病理検査の技術を磨き、専門医の資格を取得したいという日本人獣医師が、数は多くありませんが毎年いらっしゃいます。JaGA(ジャガ)はJapanese Group of American College of Veterinary Pathologists(米国獣医病理学会日本人会、通称ACVP日本人会)の略称で、そのような方々に様々な情報を提供したり、相談に乗ったり、さらに、日米の獣医病理医の交流のお手伝いをする目的で結成された非営利自主団体です。

私は32歳で渡米し、3年間の研修期間を経て35歳で米国獣医病理学専門医Diplomate ACVP (DACVP)の資格を取った遅咲き派ですが、JaGAのメンバーも含めたDACVP(50年以上の歴史があり、累計1500名以上の病理専門医を輩出しています)は年齢、性別、国籍、所属機関等が実に様々で、3年間の研修中は日本人であることも、多少年を食っていることも全く気にならずに存分に病理漬けの充実した毎日を送ることができました。英語の苦労、文化の違いによる戸惑いは勿論ありましたが、未来につながるよい経験を多く得ることができました。

JaGAメンバーがコツコツと作り上げてきた ホームページ には役に立つ情報が満載ですので、是非一度ご覧になっていただければと思います。最新情報として、米国での留学や勤務の際に避けて通ることのできない「ビザ(査証)」に関するアンケート結果をご紹介しております。

日本や他の国にも獣医病理医の研修制度や資格試験があるようですので、もしご紹介いただけるようでしたら弊社ホームページにてリンクを張らせていただきます。info@no-boundaries.jpまでお知らせください。

よろしくお願いいたします。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

死因究明、人でもハードル高し

いつもお世話になっております。

弊社のFacebookページではタイムリーな話題のご提供や業務連絡等を行っておりますが、SNSを使わない方が依然多くいらっしゃることに今さらながら気づいたところです。つきましては、本年からは当ホームページ(HP)を基盤にして情報発信をしていきたいと思います。理想的には毎週、最低でも毎月更新をノルマとして、弊社業務に関連することを中心にお伝えして参りますので、時々当HPを訪れていただければ幸いです。

本日ご紹介するのは朝日新聞社医療サイトのとある記事です(注:全文読むためには有料となります)。

弊社は動物の死因究明のための「死後検査」をしております。動物の死後検査は病理解剖、剖検、検案と呼ばれ、日本でもかつて(少なくとも、私が獣医学生だった1990年代)は活発に行われていましたが、様々な理由で検査実施数はかなり減少しているようです。弊社は3年前から、主として伴侶動物の死後検査を実施しておりますが、やはり前途は多難です。

上記の記事を読みますと、人の死因究明にも様々なハードルがあることがわかります。特に、面白い(と言っては失礼ですが)のは、死因究明に携わる学会や官庁が複雑で、それぞれの思惑や縄張り意識が問題の解決にブレーキをかけているようであることです。

死後検査は、亡くなったら常に、必ずしなくてはいけないものでは決してありません。ただ、求められた時にスムーズに、さりげなくも徹底的に行う体制が整っていることが望まれる検査です。人の死因究明体制の整備の試行錯誤を他山の石として、我々獣医病理医も頭と手と足を動かしていかねばと切に思います。

(了)