学会参加報告③(最終)

いつもお世話になっております。今日は今年2回目の本降りの雪です。昨年は25cmほど積もって難儀しました(東京ではこれを大雪と呼びます)。今回はどうなるか戦々恐々です。

昨年11月に参加した米国獣医病理学会(於:ジョージア州アトランタ)の参加報告の第3回(最終回)です。学術ポスター(約300枚)は駆け足で見たので、メモがほとんど取れませんでした。弊社が発表したポスターについては、2014年12月1日のブログをご参照ください(病変が生々しいので閲覧にご注意ください)。腹腔内出血を伴う犬の麻酔下突然死の症例がありましたら、是非情報をお寄せください。

さて、複数の口演を聞いて印象に残ったものについて、解説を交えながら以下に感想を記します。口演のタイトル(英、和)を冒頭に記しました。日程の都合上、学会期間の半分以下しか滞在できず、しかもプログラムが自然発生疾患、実験病理、診断病理、臨床病理等に分かれて異なる会場で同時進行のため、自然発生疾患の一部しか聞くことができませんでした。それでも、収穫は大きかったです。

Distinctive patterns of osteomyelitis secondary to periodontal disease in cats.
(猫の歯周病に続発した骨髄炎の代表的なパターン)

猫には何種類もの歯牙疾患が起こりますが、歯槽骨髄炎alveolar osteomyelitis(上下顎骨の、歯を収納する部分の骨を歯槽骨と呼びます)によって骨が拡大し、腫瘤を形成することがあります。その場合、扁平上皮癌のような悪性腫瘍との鑑別が重要です。猫の歯周病では、歯周炎periodontitis、歯牙吸収tooth resorption、骨髄炎osteomyelitisの3つがよく見られる変化とのことでした。病変組織を採取して組織病理検査を行えばたいていは確定診断が可能ですが、その前に、臨床的に(視診や歯科レントゲン検査で)これらを評価しておけば、多少は慌てなくて済むかもしれません。

Prognostic significance of the histologic subtype of canine mammary tumors: a two-year prospective follow-up study on 229 dogs.
(犬の乳腺腫瘍の組織学的サブタイプの予後的意義:229頭の犬の2年間の前向き追跡調査)

犬の乳腺腫瘍は日本や南欧といった、避妊手術に対してそれほど積極的でない国々の雌犬で非常によく見られます。人の乳腺腫瘍と同じく、犬の乳腺腫瘍も種類や悪性度が多岐にわたるため、治療法や予後判定(治るかどうかの見極め)のための情報をいかにして得るかが以前から活発に議論されています。組織病理検査をして腫瘍の種類を決め(組織診断名を付け)、悪性腫瘍であればその等級分け(グレード付け)をすることが、現在のところ最も現実的で信頼できる評価法とされています。しかし、組織病理学的評価について、従来の(1999年から使われている)WHO分類ではいろいろな点で限界があることがわかってきており、2011年に新しい組織分類を提唱する論文が発表されました(Veterinary Pathology 48(1) p.117-131)。今回の学会発表では、229頭の犬をこの「2011年分類」に基づいて調査した結果、悪性乳腺腫瘍のグレード1と2は予後が良好との結論でした。他には、以下のような事柄が示されました。グレード3の悪性乳腺腫瘍は死に関連する可能性がある;腫瘍細胞のリンパ管浸潤は死に関連する可能性がある;腫瘍摘出マージン(摘出組織において、腫瘍の周りにある正常組織の厚さ)は再発するかどうかにのみ影響する;「2011年分類」は予後判定に威力を発揮する。犬の乳腺腫瘍は日本では非常にありふれた疾患ですので、日本人研究者による興味深い研究も少なくありません。的確な診断をつけるための試みを今後も注視していきたいと思います。

Clinical outcomes and histopathological and immunohistochemical characteristics of feline Hodgkin-like lymphoma.
(猫のホジキン様リンパ腫の臨床転帰と組織病理学的・免疫組織化学的特徴)

猫には様々な種類のリンパ腫(リンパ球由来の悪性腫瘍)が起こりますが、リンパ節が単独に、あるいは、隣接する複数のリンパ節が鎖のように腫大する特殊なリンパ腫があり、人のホジキンリンパ腫と組織像が似ていることから、「ホジキン様(よう)リンパ腫」と呼ばれています。これまでにいくつかの症例報告があり、中でも20症例を集めたVeterinary Pathology 38(5) p.504–511 (2001)の論文は本腫瘍について詳細に記述しています。しかし、この約15年前の論文では、本症の臨床的側面は今後の研究によって明らかにすべきであるとしていました。今回の学会発表は、猫のホジキン様リンパ腫のまさに臨床的側面を取り上げる興味深いものでした。メモが追い付かず、断片的な情報で恐縮ですが、
・中央生存期間は184日(安楽殺を含む)
・外科単独よりも、化学療法をした方が2.5倍長く生存
・CD20の免疫染色でReed-Sternberg(RS)細胞やpopcorn細胞が陽性
・popcorn細胞の存在が死に関連
・RS細胞が見られた場合は死の可能性は低い
・雄は雌の2.5倍、本疾患での死の可能性が高い
といった結果が示されていました。詳細については、今後論文として世に出てくるでしょうから、そちらをお待ちいただければと思います。

Select diseases of captive syngnathid.
(飼育下のヨウジウオ科動物の疾病報告)

最近、日本のとある水族館のマグロが全滅したという報道がありましたが、生態、生理、病理がよくわかっていない展示動物(動物園や水族館の動物)を長生きさせるのはいつの時代も大変な困難が付きまとうものです。この学会発表では、皆様もご存じのタツノオトシゴが、水族館で飼われている際にどんな病気にかかりやすいかを調査した結果が示されました。メモした限りで恐縮ですが、Mycobacteria(結核菌が有名な、マイコバクテリウム属の細菌)、phaeohyphomycosis(黒色菌糸症。メラニン色素をもつカビ)、Scuticociliates(スクーチカ類繊毛虫)、Uronema(繊毛虫の一種)、Sphaeromyxa(粘液胞子虫の一種)など、様々な微生物の感染が検出され(一個体に全てが感染しているわけではありませんが)、免疫低下が背景に存在するのではないかという結論でした。水生動物の飼育には水温や水質といった環境要因も非常に重要ですので、疾患や死亡の原因を調べる際は陸上の生物よりも多角的な視点を持つことが重要かと思いました。

<まとめ>
動物は種類が果てしなく多く、起こる病気も様々です。人と違って、動物の病気を研究しても大してお金になりません(笑)。しかし、地道に検査や研究をすることで、多くの動物(人も含む)を救うきっかけをつかめるかもしれません。そんな取り組みの見本市が学会ですので、毎年、何とか都合をつけて出席しようと思っております。また、今回の学会に出てあらためて感じたのは、会場の約7割が女性獣医師・病理医で占められていたことで、若い人も目立ちましたし、外国人も少なくありませんでした。だから何?と言われるかもしれませんが、発表がエネルギッシュで多様性があり、出席するだけで楽しいものでした。日本の学会ではあまり味わえない空気です。個人的には、そういった雰囲気で、3泊5日の昼夜逆転の過酷な移動をしないで済むような近場で、年に1度くらい存分に勉強ができたらいいだろうなと夢想しています。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井