近況のご報告

皆様、こんにちは。いつもお世話になっております。

2月末に愛媛県の今治市に住み始め、もうすぐ4か月が過ぎようとしています。たまには近況報告でもしないと、あいつは大丈夫か?ということになりそうですので、少し書かせていただきます。

今治は、目前に広がる瀬戸内海の穏やかな海景と、対照的に険しく凛々しい四国山地の遠景を持つ町です。少し足を延ばせばすぐに自然に触れることができ、仕事で疲れた時など癒されております。

気候については、まだわずかな経験しかありませんが、ジメジメした感じがほとんどありません。いまだに梅雨入りしていないのですが、もうそろそろのようです。

地面というのか、露出した土地は黄色っぽい砂でできているので、関東ローム層の赤土を見慣れた自分からすると不思議な感じがします。

買い物や飲食に出歩くことは最小限ですが、不自由を感じたことはありませんし、知り合いに聞く限りではなかなか凝った飲食店が少なからずあるとのこと。

というわけで、生活するには申し分のない場所です。

造船とタオルとサイクリングの町というのは、看板に偽りなしで、先日参加した造船所の見学会では、巨大な構造物に度肝を抜かれました。タオルに関しては、変哲のない小さな工場が町のあちこちにあり、これらが地道に今治ブランドを支えているようです。

圧巻の造船所

サイクリングはしまなみ海道がかなり有名になっていますが、愛媛県全体としてもサイクリングで町おこしをしており、サイクリストを意識したインフラ整備をあちこちで見かけます。私も週に何回かは自転車通勤をしており、大学が丘の上にあるので行きはつらいのですが、帰りは半分くらいの時間しかかかりません。ちなみに、愛媛県では条例で自転車に乗る人はヘルメット着用が努力義務となっており、毎朝自転車通学の高校生を見ているとほぼ100%が(今風のおしゃれな)ヘルメットをかぶっています。その状況に耐えきれず(?)、私もヘルメットをかぶってチャリを漕いでいます。

愛車です

新たに「本業」となった大学教員の方は、人生で初めて経験することばかりで、4月は正直なところ燃え尽きるかと思いましたが、徐々にペースがつかめてきました。助教は本来若い人がなるもののようですが、私としては何も大学教育や運営について知らないために、この地位からスタートできて良かったと思っています。

授業は今のところほんのわずかしか受け持ちがありませんので、その分他の先生のサポートや、研究室の仕事、自分の論文執筆等を行っています。今後は実習教科を担当することになりますので、多少は忙しくなるかもしれません。論文を書くことはいろいろな点で教員の必須事項で、この点、意識がかなり変わりました。この秋にある日本獣医学会、米国獣医病理学会に向けても、準備を進めています。

勤務先の大学には1,2年生しかいませんので、本来獣医大学の教員が担うべき負担をまだ全く経験していませんが、これから徐々に先輩教員や他大学の先生方に教えてもらいながら、準備していければと思います。

大学からの眺め

会社での診断業務は、本業に差し障りが無いように、帰宅してから出勤するまでの時間をやりくりして行っています。眠くなると誤診が怖いので、夜は眠く感じたらさっさと寝て、朝5時くらいに起きて診断しています。まだ多少、診断キャパシティに余裕があるので、皆様遠慮なく診断をご依頼いただければ幸いです。じっくりと一つ一つの症例に向き合える環境になったのは、不幸(診断数激減→収入減)中の幸いでした。

また、夏ごろに近況報告をする予定です。お楽しみに。また、今治や愛媛を、ぜひ訪れてみてくださいね~。

三井

ミニ病理勉強会 第36回(最終回)

いつもお世話になっております。大雪になる(かも)という今日の東京は、雨すら降っておらず、天気予報のむずかしさを感じます。

本日2月9日(土)午前9時から、最後の勉強会を、ゲスト1名を迎えて行いました。

雄性生殖器

上記のQ&Aに加えて、明後日に「第2回 犬・猫の呼吸器勉強会」で講演予定の内容の予演会を行いました。喋りたいことがいろいろ出てきて規定時間を超過しましたが、本番ではピタッとおさまるようにさらに練習を重ねます。

足かけ3年に及んだミニ病理勉強会(ラウンド)において、良かったこと、悪かったことを自分なりに整理しますと…

良かったこと
・10年に一度くらいのペースで改訂される獣医病理学のバイブルを、わりと早い段階でアップデートできたこと
・数は少ないものの、バラエティーに富んだゲストに来ていただき、意見交換や、刺激を受けることができたこと

悪かったこと
・気軽に来られる勉強会にできなかったこと(予習を必須としたのはハードルが高かった)
・開催日時を弊社の都合にあわせたこと
・獣医病理以外のトピックをうまく盛り込めなかったこと

となります。今後、小グループでの勉強会を再び計画・実施する際には、重々気を付けます。

ともあれ、学会、セミナー、勉強会というと、無料にせよ有料にせよ、そのたった数時間や数日では到底理解しえないことを理解した気になってしまうことが害であると考えていますので、専門医を目指す者のガチンコの勉強スタイルを久しぶりに実践出来たのは有意義でした。まあ、読んだそばから忘れて行ってしまう悲しさもあらためて痛感しましたが…(そのためにQ&A集を毎回つくりました)。

皆様も、楽しく厳しく学べる勉強方法がありましたら、是非情報交換させていただければと思います。 → mitsui@no-boundaries.jpまで

今後とも、よろしくお願い申し上げます。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

ミニ病理勉強会 第35回

いつもお世話になっております。今年の冬は東京ではほとんど雨も雪も降らず、加湿器が大活躍しております。皆様も風邪には十分にご注意ください。

先日1月19日(土)に開催した勉強会は、ゲスト1名を迎えて、いつもどうり地道に取り組みました。写真は撮り忘れました。

卵巣・子宮 その2

上記のQ&Aに加えて、弊社で請け負った死後検査2症例(「飼主により医療事故と誤認された、び漫性肺胞傷害、心嚢血腫、糸球体腎症を呈した犬」、「小腸コクシジウム症と原因不明のリンパ球有意な上部気道炎および上部消化管炎を呈したトカゲ」)の検討を行いました。死後検査は重労働ですが、将来何かの役に立つことを信じて、こうして淡々と知見を積み上げていくのみです。

当勉強会の構造・やり方については、昨年3月17日の投稿をご覧ください。次回の第36回(最終回)は、2月9日(土)朝9時から開催予定です。予習範囲はPathology of domestic animals 6th edition、第3巻、p.465-510(雄の生殖器)です。なぜ雄の生殖器はたいてい教科書の最後あたりに来るのかわかりませんが、大事な器官であることに違いはありませんので、しっかり学びましょう!

東京での営業もあと1か月足らず。何卒よろしくお願い申し上げます。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

日本比較臨床医学会参加記

お世話になっております。去る12月2日(日)、神奈川県相模原市の麻布大学にて、第49回 日本比較臨床医学会 学術集会が開催され、参加しましたので、ごく簡潔にご報告いたします。

10時頃から16時過ぎまで、昼食休憩1時間を挟んで5時間ほどのこじんまりした集会で、参加人数は40名ほど。獣医大学(全ての大学ではない)の教員の方々、企業関係の方々、大学院生・学部生と思われる若い方々、そして自分のような(やや場違いな?)人間が参加していました。7題の研究発表は、動物やヒトの遺伝子解析が主題の発表が3題で、あとは自動血球計算機、過酸化水素水、イヌ骨髄由来間葉系幹細胞、高ナトリウム血症のイヌの症例について等、バラエティーがありました。いずれも普段自分が接することがほとんどない領域で、理解は完全ではありませんでしたが、興味深く拝聴しました。

衝撃を受けたのはシンポジウム「”基本的な臨床検査の信頼性”について 小動物臨床領域における取り組みの現状と課題」でした。座長のおひとり中島公雄先生の開会のお言葉の中に、「私は長年臨床検査技師をやってきて、獣医師免許を晩年に取得したが、獣医療における臨床検査の現状を見て驚いたことが3つある。一つめはヒトの測定試薬を使っていること。二つめはヒトの基準値を使っているか、動物の基準値を使っていたとしても学会や論文で定義されたものは存在しないこと。三つめは精度管理の概念がないことである。会場の皆様に怒られるかもしれないが、率直に言って、ヒトの臨床検査の50年前の状況が、獣医療における臨床検査の現状である」という趣旨のものがありました。

シンポジウム講演者お一人目の根尾櫻子先生(麻布大学)は、「小動物臨床領域における”基本的な臨床検査の信頼性”に焦点を当てる~小動物臨床領域における臨床検査の信頼性確保の取り組み(現状と今後)~」ということで、昨年行った関東5獣医大学の共同プロジェクト(同じ血液サンプルを各大学に持ち込んで測定)の結果発表(欧州でも発表されたそうです)や、精度管理に対する米国獣医臨床病理学会の取り組みやガイドラインの紹介、また、事前に参加者にアンケート用紙を送って得た回答を基にした討論を行われました。会場の企業関係者にも発言を促され、受託検査機関や測定機器メーカーの方々にとっては、商機であると同時にしっかりした枠組みを作っていかねばならないという使命感・責任感が(もしかしたら)植え付けられたのではないでしょうか。獣医領域における臨床検査の結果を担保し保証することについて、超えるべきハードルは高く、また、複数ありますが、取り組みが確実に始まっていることを目の当たりにできた、大変貴重な機会でした。

お二人目は自治医科大学地域医療学センターの小谷和彦先生で、「臨床検査の信頼性」という講演でした。まずは、従来「臨床病理」と呼ばれていた分野が今は「臨床検査医学」となっているそうで、獣医療においてなんとなくanatomic pathology(解剖病理学、形態病理学)とclinical pathology(臨床病理学)が混同されがち(先日も、私のところに細胞診標本が送られてきましたので、「私の専門分野ではありません」と丁重に臨床病理医を紹介させていただきました)なのも、このような再定義によって解消されるのではないかと思いました。さておき、小谷先生のご講演はヒトの臨床検査の現状や背景を網羅する大変興味深い内容でした。ヒトの検査においては「基準範囲」が複数あり混沌としているそうですが、その背景には「健常者の定義があやふや」(WHOの定義を採ると健康と自覚している人が健康になる。喫煙者は客観的には不健康だが、健康だからこそ煙草を吸う余裕が体にあるという意見もある。等々)、「試薬・キットのメーカーが複数ある」、「基準範囲をどのように運用したいかによってカットオフ値が変わる」等の事情があるそうです。だからこそ、内部精度管理(検査施設内部における検査の質の保証)と外部精度管理(統括団体が配布するサンプルを測定し、乖離がないか確認する)が非常に重要で、臨床検査技師もメーカーもそれぞれの現場で絶え間ない努力を続けているそうです。トレーサビリティーも重要で、一次校正物質、二次校正物質、実用校正物質、日常校正物質といって、何重にもわたって「自分が今行っている検査は本当に正しいのか」を検証できる枠組みがあるとのこと。翻って、われわれ獣医師のフィールドにおいて、内部と外部の精度管理をキッチリ行っている動物診療施設や検査機関はいったい全国でどれくらいあるのでしょうか。小谷先生のお話の中で、ちょうど今月1日から新しい法律が施行されるとのことで検索してみると、たくさんヒットしましたので、その中の一つ(記事)をご紹介します。

検体検査の品質・精度確保に関わる法令

ヒトの医療において、遺伝子検査という新しい領域がクローズアップされてきたことを含めた法改正のようですが、これだけたくさんの精度管理・書類作成をしないといけないとは、驚きです。私自身、非常に小さな動物病理検査会社を運営しているわけですが、標準作業書も作業日誌も存在しません(医療廃棄の記録や、診断検体についての受付記録・報告書(診断書)くらい)。獣医は緩いな~、ということで苦笑いするしかありませんが、将来的には変わっていくことになるのかもしれません。

小谷先生が「私のお話が、ヒトと動物の検査体制の50年のギャップを少しでも縮めるお役に立てれば」とおっしゃっていたのが印象的でした。そうです、問題が多々あることを我々獣医師が認識し、枠組みを作り、検査に携わる者が持ち場で努力すれば、人医や欧米獣医療との差を縮めることができると思います。頑張りましょう~~!(ややユル)

最後に、小谷先生に「病理検査の精度管理はどのようにされているのですか?」と質問したところ、「標準的な病気の病理切片を各所に配布して行っている」とのことでした。動物の病理の世界では、以前勤めていた外資系の会社で同じことをしているのを見たことがあります(米国内の診断医同士で)。日本の獣医病理分野において精度管理がどのように捉えられ、取り組まれているかについて、残念ながら私は状況を把握できていません。ただ、まずは、同業者が多く参加する研修会、学会、勉強会等に出て、他の獣医病理医と交流(バトルではない)し、「ああこんな風に診断するのか」「こんな視点があるのか」と切磋琢磨することが重要かと感じています。

以上、まとまりを欠きますが、未来への宿題をいくつもいただいた貴重な学会の参加報告を終わります。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

米国獣医病理学会参加記

平素よりお世話になっております。

11月3~8日(日本時間9日)まで、ACVP/ASVCP concurrent annual meeting(米国獣医病理学会・米国獣医臨床病理学会 合同年次大会)に参加してまいりました。例年よりも長くお休みをいただきまして、お客様各位にはご迷惑をおかけいたしました。おかげさまで大変有意義な時間を過ごすことができました。以下、長くなりますが、学会参加のご報告をさせていただきます。

<学術的インプット>
11月4~7日まで毎日口演を聴き、空き時間にはポスターを見て回りました。それらを網羅して記述することは不可能ですので、2つだけピックアップします。

Interdisciplinary Insights on the New World Origin of Canine Distemper (Dr. Elizabeth Uhl, University of Georgia)

パラミクソウイルス科に属するモルビリウイルスは、現在ヒトで流行しているはしか/麻疹(measles)、かつて世界中で多くの反芻獣を殺した牛疫(rinderpest)、今でも世界各地で多くの犬(をはじめとする複数の動物種)を痛めつけている犬ジステンパー(canine distemper)等、悪名高いウイルスを多く含むグループです。歴史書を読み解いていくと、牛疫は紀元前3000年より前に(2011年に撲滅宣言)、はしかは西暦900年に、犬ジステンパーは西暦1742年には登場していたそうです(昔は人医が動物の疾患について記載することもしばしばあったとのこと)。演者は、歴史書の精査、paleopathology(古生物病理学。ミイラや化石に見られる疾患を研究)の専門家と共同での化石の犬の歯のエナメル質びらん(犬ジステンパーの際に見られることがある)の調査、分子生物学者と共同でのcodon usage biasの調査を通じて、犬ジステンパーの起源に迫っていきました。その結果、西暦1500年ごろ欧州から南米に渡った(侵略した)ヒトの麻疹ウイルスが、犬に「ジャンプ」した可能性があることがわかったそうです。

実はこの3ウイルスの関係性については、数多くの論文(Nature等、有名な雑誌も多い)が出ていて、ウイルス性疾患がどのような歴史的経緯をたどって世の中に出現したのかを多くの研究者が考察しています。病気の歴史がわかれば、今ある病気が今後どのような挙動をとるかや、これから世の中に現れるかもしれない未知の病気への対処の手掛かりが得らえるということのようです。牛疫は撲滅されたので良いとしても、犬で蔓延している(日本では犬のワクチン接種のおかげでめったに見ない病気です)ジステンパーが、今後いきなり人に「戻って」くるかもしれません。病原体、特にウイルスは、遺伝子がわずかに変わるだけで、結合する細胞の種類や動物種が変わる、すなわち、今までになかった病気が突然世の中に出現します。歴史を丁寧に読み解く姿勢と、最新のテクノロジーの融合が、少なくとも感染性の疾患と闘うアプローチのモデルになるのだなと学ぶことができました。スケールの大きな映画を観た後のような余韻が得られた名口演でした。

Post-meeting workshop: Forensic pathology

学会最終日に行われた半日のワークショップは、ここ数年内容が「獣医法医学」に固定されています。私は以前からこれに参加したかったのですが、今回初めて実現しました!コーネル大学の司会者の先生によれば、昔は年に数件だった獣医法医病理解剖が、昨年は180症例に激増したそうです。少なくともアメリカでは、動物の法医学が着実に学問分野としての存在感を増しており、Veterinary forensic pathology(獣医法医学)という呼び名もVeterinary forensic science(獣医法医科学)とした方がよいのではないか、その方が学際的なこの学問を的確に表現しているのではないかという議論もあるようです。ワークショップでは3人の女性講師が教えてくださいました。

フロリダ大学のElizabeth Watson先生は獣医画像診断専門医で、遺体のX線、CT、micro CT、MRの(用途に応じた)撮影により、死に至った経緯の手掛かりが得られるという内容でした。獣医画像診断分野でも、獣医病理分野と同様に法医学への関心が近年高まっているそうで、virtopsy (virtual + autopsy)という言葉もあります。病理解剖と異なり、遺体に直接触れることのないこれらの検査は一般の人々にも受け入れられやすく、今後さらに発展していきそうです。血胸(胸腔内出血)と胸水は異なって見えるとか、高所落下と交通事故の骨折の違いとか、焼かれた遺体における骨の特徴とか、訓練と勉強を積めば、非常に役立つ画像診断医になれるのだろうなと実感しました。画像診断に興味のある獣医さんや学生さんは、この分野要チェックです!

2人目の講師はやはりフロリダをベースとしているLerah Sutton先生で、その名もCSI academyという、犯行現場調査の専門家養成機関で活躍されている方でした。フロリダは、アメリカにおける法医学のメッカの印象です。今回Sutton先生は、forensic taphonomy and clandestine grave detectionという、日本語に敢えてすれば「法医学的タフォノミー(生物の遺骸が化石になっていく過程の研究)と秘密埋葬場所の発見法」とでもなる、一風変わった内容を話してくださいました。法医学が学際的であるとは、私はこれまで何度も書いてきましたが、やはり今回の口演の分野でも、植物学、昆虫学、「天日ざらし」、土壌着色、食肉動物による咀嚼、気象学、土壌侵食といったいろいろな知識を総合しなければ、遺体や犯行現場から十分な情報は得られないと強調されていました。こんな分野があることそのものに、驚きを禁じえませんでした。

3人目はルイジアナ大学のMaranda Kles先生で、distinguishing skeletal features of common species and breedsということで、様々な動物や品種の骨の特徴について話してくださいました。先生がよく受ける質問として、「これはヒトの骨ですか?もしそうでないなら、どんな動物の骨ですか?」というのがあるそうです。我々日本の獣医解剖学者や獣医病理医も、たまにこんな質問を受けるのではないでしょうか。そういえば、獣医学生の頃は「主な」動物数種類の骨学は学びましたが、実際には動物は星の数ほど種類があり、種類によってはさらに品種がものすごい数存在します。獣医師たるもの、自分が扱う動物達(中には哺乳類以外もありますね)の骨の特徴は知っておきたいものです。そういった実用的な骨学を、我々はほとんど知らないのだなあと気づかされました。形態でわからないことは、元素分析、触感、重さ、色、組織学的特徴、レントゲン学的特徴を駆使して追及するそうです。また、面白かったのは、鑑定を依頼される「非」法医学的な骨として、大昔の化石や遺跡、バーベキューのゴミ、狩猟や密猟の獲物、自然災害に起因する遺体の骨、等があるそうです。また、今の時代はCTで3D画像が簡単に撮れますので、そこから3Dプリンターで骨模型を作っておけば、たいていの動物に関しては面倒な骨の処理をせずに「お手本」が気軽に複製でき、法医学的な活用が容易になるだろうとのことでした。世の中、何が何の役に立つのか、本当にわからない時代になりましたね~。

口演のあと、Watson先生からはCTやレントゲンの画像クイズが、Sutton先生とKles先生からは骨の標本の展示(実際に触れたり嗅いだりできる)があり、実技も多少経験できました。今回の経験と人脈を、今後の日本での獣医法医学(獣医法医「科学」の方が適切?)の発展に役立てればと思います。

様々な動物の骨標本で実習

<oral presentationの苦労と失敗談>
ACVP年次大会に参加するようになって10年以上が経ち、年によっては学術発表をしましたが、今回初めて口頭発表枠に選ばれました。「ポスター発表でも口頭発表でもどちらでもよい」、という選択肢に毎回チェックしていて、なぜ今回だけ口頭発表になったのかは不明です。今後、学生さんらの指導をする中で、自分自身が外国での口頭発表を経験すべきと感じていたのでちょうどよかったのですが、これがとても大変でした!失敗を糧にすべく記述します。

発表した題材は、麻布大学でほぼ毎月行われている関東の私立獣医系3大学の獣医病理カンファランスで発表したものでしたが、ちょっとした分子生物学的検査結果の補足や、肉眼・組織所見の総見直し、病態生理の考察のやり直しをしました。その結果アブストラクトを書いて提出、採択されましたが、採択通知を見て唖然としたのが「発表時間5分」というものでした。例年ですと15分ずつ割り当てられてその中で発表と質疑応答があるのですが、今年はできる限り多くの発表を盛り込むコンセプトだったようです。英語で、きちんとした口演をするのが久しぶりだったので、準備段階ではスタンフォード大学のこのリンクから得られる資料を参考にし、非常に役に立ちました。

ACVPの学術口演と言えば、資料(あんちょこ)を読むのではなく暗記した内容を、聴衆の反応を見ながら、科学的なエンターテイメントの体で行うのが定番です。発表を損ねない程度のジョークも隠し味になりますが、外国人が無理に行う必要はない気がします。ということで、自分で作った原稿を何度も何度も読み、暗記し、ときにスマホで録音して、時間内に収まるようにさらに推敲しました。結果から言うと、これだけでは不十分でした。一つは、練習期間が2週間と、短すぎました。仕事にかまけて、また「5分だからいいや」と舐めてかかってしまいましたが、短い発表ほど言葉を簡潔かつ的確に伝える必要があり(言い直して説明している暇がない)、より完璧な仕上がりが求められたのです。英語も錆び付いていました。もう一つは、一人での練習に終始し、予演会を行わなかったことです。人前で緊張するという訓練ができなかったことや、貴重な批評・フィードバックが得られなかったことが悔やまれます。というわけで、実際の発表の際は、時差ボケ(日本時間の朝7時ころだったので、完全徹夜明けの体調でした)も手伝い、恥ずかしい発表となりました。現地入りをもう1日早めていたらよかったなとも思いました。これらの失敗を、今後に生かします。発表内容については、オーソドックスな病理の発表で、これも今後は他の方々の意見を聞いてもっと将来につながる内容にしなければならなかったなと反省です。 

ACVP口演資料

<交流>
今回は滞在期間が例年より長かったので、いろいろな交流の機会に恵まれました。

ACVP VIP dinner
JCVP(日本獣医病理学専門家協会)の代表として参加されていた鳥取大学の森田先生と、ACVP日本人会のアメリカ側会長の黒木先生と参加し、貴重な経験ができました。ディナーにはACVP/ASVCPの現および時期評議員の先生方(大学や企業の獣医解剖病理医・獣医臨床病理医)、ECVPの会長ご夫妻、アイデックスやアンテックといった大手診断会社の代表、前AVMA会長のTopper先生(獣医病理医)ご夫妻らが参加され、和やかに自己紹介、各自の面白話、業界の裏話が展開されました。

ACVP/ASVCP評議会
森田先生、黒木先生、アイデックスの下ノ原先生とともにに参加し、JCVPの活動内容に関する森田先生の発表をサポートしたり、日米の獣医病理医が今後どのように協力できるかの意見交換をしました。朝8時から評議会をやるあたり、アメリカの朝型の仕事は徹底しているなと思いました。

Neuropathology mystery slide session
毎年のように(聴衆として)参加しているこの名物セッションにおいて、今年は札幌のノースラボの岡田先生が発表されるので、夏ごろから細々とサポートをさせていただきました。ACVP日本人会のミーティングの際に岡田先生の予演会も行い、翌日の岡田先生の堂々とした素晴らしい発表に少しは貢献できたのかなと思います。

岡田先生予演会 at JaGAミーティング

neuropathology mystery slide sessionの後で

International veterinary pathology coalition (IVPC)
ACVPは主として北米の組織であり、欧州にはECVP、日本にはJCVPがあります。中南米にも、これに準ずる有志団体があります。各組織から、世界を舞台にして何かやりたいという人々が集まってIVPCが発足したようです。私は今回初めて会合に参加しましたが、「世の中をよりよくするために」、「学生や、若い獣医病理医に様々な機会を提供するために」、「異国の文化を尊重し楽しむために」といった観点で、組織を徐々に作っていこうという建設的な意見、提言が数多く出されました。日本人としても、積極的に関与していきたいなあ、面白そうだなあと強く感じました。

ACVP日本人会(JaGA)ミーティング
JaGAには現在20名に届きそうな数のメンバーがいます。今回の参加人数はそれほど多くありませんでしたが、活動報告や活動計画について話したあとは、ホテルのバーで懇親会を行いました。ミーティングの議事録は後日メンバーにお送りします。

日本の先生方とのプチ懇親会
東京大学、大阪府立大学、帯広畜産大学、鳥取大学等から参加されていた獣医病理の先生方、大学院生の方々や、診断会社、動物病院の先生方等と、ほぼ毎晩、色々な意見交換ができ、お酒もおいしく、楽しいひと時でした。ありがとうございました。日本の大学における取組についての情報も、とてもためになりました。

<番外企画>
たまたまACVP日本人会メンバーの何人かが昔から知っていたNeel Aziz先生というアメリカ人の獣医病理医がワシントンDCのスミソニアン動物園で働いており、ご厚意で園内の動物病院・研究施設のバックヤードツアーを企画してくださいました。冷たい雨の降る中、早朝から、世界に名の知れている施設の内部をくまなく説明していただき、その充実ぶりに驚くばかりでした。剖検レポートや病理スライド、パラフィンブロックなどは、50年以上も前から保管されており、超がつく貴重なコレクションでした。象の保護、研究でも有名で、ヘルペスウイルスによる致死的な象の疾患は、この研究所から論文が出ています。Aziz先生自身の、アジアでの病理職遍歴のプレゼンも見せていただき、グローバルな獣医病理医の一つのロールモデルを学ぶことができました。Aziz先生には感謝しきりです!

スミソニアン見学

<その他>
ワシントンDCは紅葉が非常にきれいで、天気はあいにく曇りや雨の方が多かったですが、首都の風格を随所に感じました。学会の合間にはいくつかの博物館や、ホテルの近所のスミソニアン動物園(バックヤードではなく、一般向けの区画)も訪れることができました。ちょうど中間選挙で共和党が下院を明け渡す結果となり、米国の将来は混沌として来ているのかなと感じました。

来年、この学会に今回のように参加できるかどうかは不透明ですが、なるべく若い人たちにこの自由で厳しい環境を経験したり、ここに飛び込んだりしてもらえるように、裏方の役割を継続してまいります。

以上となります。冗長で失礼しました。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井