腫瘍学小テスト③解答④問題

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今回のブログを書きながら、愛玩動物の自然発生腫瘍にも分子生物学的な異常が関与しているものが少なからずあるのではないかと思いました。いえ、本音を言えば、そのような病理メカニズムはまず間違いなく存在するだろうと、普段の病理診断業務を通じて痛感しています。特定の犬種の特定の場所ばかりにできる病変(ミニチュアダックスフントの大腸ポリープ、柴犬の小腸リンパ腫、ジャックラッセルテリアの胃腺腫・胃癌、など)、犬や猫の乳腺腫瘍、特定の品種に偏る腫瘍、若齢で起こる悪性腫瘍、などなど、枚挙にいとまがありません。獣医療において腫瘍を多方面からしっかりと研究すれば、思いもよらなかったことがわかり、動物のみならず我々ヒトの健康にも寄与することでしょう。では、前回分の解答と今回の問題をご覧ください。

腫瘍学小テスト③ 解答

Q1.腫瘍は遺伝子に非致死的な傷害が生ずることで始まる。腫瘍という結果は一緒でも、傷害を受ける遺伝子の機能や種類は様々である。腫瘍細胞において傷害されている遺伝子の機能を4つに大別すると、①プロトオンコジーン、②腫瘍抑制遺伝子、③(    )を制御する遺伝子、④DNA修復に関わる遺伝子、となる。③の()に入る語句を述べよ。
A1.アポトーシス(プログラムされた細胞死)。

Q2.プロトオンコジーン(癌原遺伝子)proto-oncogeneとは、細胞に存在する〔正常な or  異常な〕遺伝子で、この遺伝子をもとにしてできる癌タンパクoncoproteinは種々のメカニズムを介して細胞の増殖を促進する。〔〕内の正しいと思う方を〇で囲め。
A2.正常な。

Q3.腫瘍発生の文脈において、機能獲得gain-of-functionとは突然変異が細胞の自律的な増殖をもたらすことを示す。では、機能喪失loss-of-functionによって腫瘍が発生する場合、どのような機能の遺伝子が変異していると考えられるか?
A3.腫瘍抑制遺伝子や、アポトーシスを促進する遺伝子。

Q4.腫瘍発生におけるdriver mutationとpassenger mutationを定義せよ。
A4.driver mutationとは、細胞が悪性腫瘍の性質を獲得する原因となる突然変異。passenger mutationとは、driver mutationが起こるまでに数多く起こる、遺伝子の不安定をもたらすものの、細胞の表現型を変えるには至らない突然変異。ボクシングで言えば、ジャブがpassenger mutation、ダウンを奪う強力パンチがdriver mutationか。

Q5.腫瘍は、初めは単一の細胞のクローンによって構成されているが、増殖するにしたがって様々な性質を持つ腫瘍細胞のサブクローンの集合体となる。これは、生物学で有名な(    )の(    )論になぞらえられる。初めの括弧に人名、次の括弧に語句を入れよ。
A5.ダーウィンの進化論。抗がん剤等による治療が一時効果を見せるにもかかわらず腫瘍が再発することがあるのは、治療に抵抗性を持つサブクローンが生き残って再増殖し優勢となったからと解釈される。

Q6.DNAの突然変異のみが腫瘍発生をもたらすのではなく、エピジェネティックな(後成的な)現象が関与していることがわかってきている。エピジェネティックな現象の例を挙げよ。
A6.DNAのメチル化、ヒストンタンパクの修飾等。

Q7.悪性腫瘍の特徴、原因、存続因子は複数あり、これらを知り、探求することが悪性腫瘍の診断、治療、予防に役立つ。参照文献には10個の項目が記されているが、あなたが思いつく限りを述べよ。
A7.①局所浸潤と遠隔転移、②遺伝子の不安定性、③血管新生の誘発、④アポトーシスの回避、⑤無秩序な細胞エネルギー産生、⑥免疫学的破壊の回避、⑦成長抑制因子の回避、⑧際限なき複製による不死化、⑨腫瘍を誘発する炎症、⑩持続的な増殖シグナル。

Q8.次の5つのプロトオンコジーンが属するカテゴリーを番号で述べよ。
  プロトオンコジーン  HER、MYC、CDK4、KRAS、HGF (本来はイタリック体)
  カテゴリー  ①細胞周期調節因子、②成長因子受容体、③シグナル伝達関連タンパク、④核調節タンパク、⑤成長因子
A8.HER②、MYC④、CDK4①、KRAS③、HGF⑤ (本来はイタリック体)

Q9.oncogene addictionとは何か?また、この言葉を用いるときに注意すべきことは何か?
A9.腫瘍細胞が、一つあるいは複数の癌遺伝子の働きに依存していること。この概念により、当該癌遺伝子を抑えることができれば治療効果が劇的に改善すると考えられがちであるが、現実にはそう単純なことではないらしい。

腫瘍学小テスト④

出典 Robbins and Contran Pathologic Basis of Disease 9th ed. Chapter 7: Neoplasia. p.290-300, 2015, Elsevier.

Q1.腫瘍抑制遺伝子は、正常な細胞の増殖にブレーキをかける重要な役割を果たしており、多くの腫瘍においてこのタイプの遺伝子に異常が見られる。その一つにRB(遺伝子なので本来はイタリック体)がある。RBに変異が起こると網膜芽細胞腫という眼球内の悪性腫瘍の発生につながるが、生まれつきRBに異常がある場合とそうでない場合ではこの腫瘍の発生リスクに大きな差があり、two-hit 仮説(Knudson仮説)と呼ばれている。この仮説を簡潔に説明せよ。
Q2.「ゲノムの守護者」の異名を持つTP53(イタリック体)という遺伝子は、p53というタンパク質をコードしている。正常細胞が腫瘍化するのを防ぐためにp53が担っている役割を4つ述べよ。
Q3.(    )という遺伝子(と、これがコードする同名のタンパク質)は「大腸腫瘍の門番」と呼ばれており、WNTシグナリングの重要な要素(この経路を抑制するように働く)である。括弧に入るアルファベット3文字の遺伝子名を述べよ。
Q4.腫瘍抑制機能を持ちながら、血管新生や免疫回避等、腫瘍増殖に寄与する働きも持つ、いわば諸刃の剣のシグナル伝達経路とは何か?
Q5.Li-Fraumeni症候群とは何か?
Q6.細胞増殖経路のPI3K/AKTシグナリングを抑制する、ヒトのCowden症候群(過誤腫や良性腫瘍が皮膚や消化器に多発する疾患群)において変異しているとされている遺伝子は何か(アルファベット4文字)?

以上です。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

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