2016年海外学会参加報告

いつもお世話になっております。最も寒いはずの2月を目前にして、気合を入れております。

毎年末に米国獣医病理学会に参加させていただいております(過去のブログ参照)。今回は留守をレジデントの河村先生に頼むことができたので、例年より1泊多く参加してまいりました(感謝!)。学会開催地はメキシコ湾に面するルイジアナ州ニューオーリンズ、アメリカ人も「ニューオーリンズに行くなら食い倒れろ」と言っているとかいないとか、食文化の豊かな街として知られています。2か月前の話になってしまいますが、学会参加レポートを記しますので、しばしお楽しみください。

①Pre-meeting workshop
学会期間は5日間で、最初と最後の日に特定のトピックについて半日~一日をあててワークショップが開かれます。今回は最後の日のpost-meeting workshopで、私が大変興味を抱いている獣医法医学の話があったのですが旅程の都合で出られず、pre-meeting workshopのみ参加しました。
今回はThe Identification of Protozoan and Metazoan Parasites in Tissue Section(組織標本における単細胞性/多細胞性寄生虫の同定)という内容で、その道の第一人者Dr. Chris Gardinerが講師でした。この方はかつて米国の軍隊に所属し、世界各地に滞在経験があり、沖縄にいたこともあるそうです。寄生虫学者として大変有名な方で、ワークショップ参加者の大半がサインをもらいに行きました(私もその一人)。一日をかけて、Leishmania、Trypanosoma、Trichomonasから始まりBaylisascaris、Pelodera、Pentasomaに至るまで、哺乳類、鳥類、魚類の様々な寄生虫の形態学的特徴や生態を説明してくれました。ある動物にある寄生虫がみつかり、それがどのようにして到達・寄生したのかを探索する話は、さながら推理小説のようでした。
個々の寄生虫の厳密な同定は寄生虫学者や分子生物学者に依頼するとして、病理診断医は肉眼や光学顕微鏡である程度、寄生虫の種類を絞り込むことが求められます。寄生虫の種類が大体わかれば、個体や群においてどのような治療や予防が必要か、臨床獣医師や動物飼育者にアドバイスができるからです。致死的な寄生虫も多くありますし、他の病原体の運び屋になる寄生虫もありますし、何もせずそこにたたずんでいる寄生虫もあります。
日本では病理医診断医があまり寄生虫の同定に注意を払わない傾向があるように私には見えるのですが、少しわかってくると面白いですよ!「わからない虫が見つかったら、是非俺に写真を送ってくれ、無料でコンサルテーションするから」、なんて心強いセリフがDr. Gardinerの口から出ました。このワークショップの内容や使用写真は、講師の著書(An Atlas of Protozoan Parasites In Animal TissuesとAn Atlas of Metazoan Parasites in Tissue Section)に沿っているので、オンラインで購入すれば誰でも勉強できます。日本では家庭で飼育されている動物に寄生虫をみることが減ってきましたが、野生動物や展示動物(水族館、動物園)の病理検査、あるいは今後増えるであろう獣医法医学にたずさわる方々は、是非身に付けておいて損はない技術だと思います。

寄生虫ワークショップ

②オンライン教育のアナウンス
①に関連して、本ワークショップの主催はCharles Louis Davis and Samuel Wesley Thompson DVM Foundation(http://www.wcea.education/app/cldavis)という獣医病理教育の団体なのですが、そこから嬉しいアナウンスがありました。私も先ほど試してみたのですが、この財団のホームページ(HP)のONLINE CMEという項目に行くと、様々な自習教材(動画など)を観ることができます。無料のものも含まれています。留学中に専門医試験の準備でお世話になったNoah’s Arkiveという、あらゆる動物のあらゆる病気の肉眼等の写真を収めたレーザーディスク(懐かしい!)が財団に寄付されたそうなので、そのうちこの巨大なアーカイブも本ホームページで観られるようになるとのことでした(ちなみに「新しいNoah’s Arkive」はUniversity of Georgiaからオンライン版が売り出されているようです)。世界中どこにいても、獣医病理診断の基礎をオンラインで学ぶことができる。診断の腕を磨きたい方々には朗報だと思います。大学での使用も想定されているようで、「教員はご一報ください」みたいなメッセージもありました。

オンライン教育

③学会
インプット面では、例年、気になったポスターについて当社HPで述べてまいりましたが、今回は口演で気になったものについて一言程度触れるにとどめます。ポスターを全部見て回る時間がありませんでした。口演も実質的に1日分しか聞けていません。
アウトプットとしては、当社の死後検査で遭遇した珍しい致死的な腫瘍についてのポスター発表を行ってまいりましたので、別の回のブログで掲載いたします。

・ライオンや虎の、呼吸器に病変が限局した(中枢神経に病変がなく、免疫染色でもウイルス抗原が検出されない)犬ジステンパーウイルス感染の症例報告
・犬のヘルペスウイルス性髄膜脳炎の症例
・ベーリング海の大海獣(イルカ等)のstranding(弱ったり死んだりして岸に打ち上げられること)。鑑別診断としてFukushima nuclear accidentが挙げられ、セシウムは検出限界以下だったので可能性は除外された。聞いていてドキッとしました。
・Nannizziopsis vreisii(ケラチン好性の真菌)による亀の甲羅の潰瘍。レントゲン写真で甲羅が体腔にゴルフボールのように陥没していたのが印象的でした。
・Bartonellaによる猫の心内膜炎
・ナマズの主要な細菌性疾患。ワクチンを使って予防する細菌性疾患もあるとのこと。
・ジカウイルスの話題。昨年、世界中を騒がせたこのウイルスについて、ウイルスの専門家が基調口演をしてくれました。元々は南米の一地域の常在病だったそう。実験動物に感染させると精子や精巣上体にウイルスが検出される(性感染を裏付ける)。神経病理ミステリースライドセミナー(お酒を飲みながらの夜の症例検討会)でも、ジカウイルスによる脳病変が取り上げられていましたっけ(あまり覚えていません)。

④ミステリースライドセミナー
日本獣医病理学専門家協会(JCVP)と米国獣医病理学会(ACVP)の間の話し合いで日本からの学術発表を増やそうということになったそうですが、手始めに今回は夜の症例検討会に日本人が出題することになり、私が所属するACVP日本人会も準備に少し関わりました。神経病理のセミナーでは東京大学のチェンバース先生、水生動物のセミナーではアイデックス ラボラトリーズ株式会社の下ノ原先生が講演され、内容も素晴らしかったのですが、事前に少し心配した「笑いを取れるか」「会場を和やかにできるか」という点でも大成功でした。第1回がこれだけうまくいってしまうと後続の人にプレッシャーだろうなという気もしますが、学会参加の諸費用がJCVPから補助されるということもあり、是非若い病理医や病理医の卵達に、今年も挑戦してほしいものです。私どもACVP日本人会は喜んでお手伝いいたします。

⑤LSU視察
ルイジアナ州立大学(LSU)の獣医学部に日本人(北里大学出身)のNobuko Wakamatsu-Utsuki先生が准教授としていらっしゃるので、ご勤務中に無理を言って見学させていただきました。今回のアメリカ滞在中、結局一日も晴れた日がなかったのですが、LSU訪問のために100km以上離れたバトンルージュに向かった日にはこれに輪をかけて雷を伴うすさまじい豪雨となり、レンタカーのハンドルを握る手に汗をかきました。車には、日本の宝の病理医や大学院生が複数乗っていたからです。幸い、無事故で往復できました(当たり前か)。
LSUのキャンパスの一画にあるAnimal Disease Diagnostic Laboratory(ADDL)をNobuko先生の案内でじっくり見学させていただき、病理検査の仕事の流れや検査室のレイアウト、機器等を興味津々で拝見しました。私が留学していたPurdue UniversityのIndiana ADDLとシステムとしては類似していました。アメリカでは、大学と州が共同で動物の検査施設を運営していることが多く、日本でいうと大学と家畜保健衛生所が一緒になっているイメージです。見学中、獣医学部生の剖検実習(少人数のグループで、獣医の各診療科をローテーションするものの一環)にも出くわしました。緊張した様子で講師の説明に聞き入っていました。
完成して数年という綺麗な施設で、州内の様々な動物の検査を一手に引き受けているのですが、病理もあれば毒性、細菌、分子生物等の他のセクションもあり、獣医大学と隣接しているので、動物の病気を丸ごと理解したうえで、各方面(行政、教育、研究)に利益をもたらすことができます。アメリカはつくづく、物事の枠組みを作るのに長けているなあと思い直しました。

学生ローテーション

LSU ADDLにて

⑥その他
・学会参加者に占める女性の割合の多さ、多国籍の参加者、様々な服装、ケータリングの充実、休憩時間や夜の蜂の巣をつついたような大騒ぎ(学会はコミュニケーションの場でもあり、あちらこちらで会話に花が咲く)等々を今回も感じました。
・英語がかなり錆びついて通訳には役立たずですが、JCVPの先生方がACVPの評議員に会うところに同席させていただきました。面会時間の30分が足りないと思えるほど、お互いが相手のことを知りたい、コラボレーションしたいと感じていることが伝わってきました。

JCVPとACVP

・毎年この学会に駆けつけてくれる同窓生の前田博士は今年も忙しい研究の合間を縫って来てくれましたが、ニューオーリンズ滞在時間はなんと10時間ほど!夜に来て、食事しながら近況等おしゃべりをして、翌早朝にはシンシナティへ戻っていきました。研究者はホントに忙しそうでした。ありがとう!
・日本の獣医病理の研究にはたくさん面白いもの、素晴らしいものがあるので、是非先生方、学生さん、今年のACVP学会に行きましょう!カナダのバンクーバーでの開催ですので、例年になく行きやすいです。

では、学会報告はこの辺で終わりにします。ご質問等があれば遠慮なくどうぞ。

学会参加にあたってご迷惑をおかけした諸先生方には、あらためてお詫びと感謝を申し上げます。今年も同様になる予定ですが、何とぞご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

三井