Q&A

A1.多くの場合、わかります。死因には、「直接死因」、「介在死因」、「原死因」があります。例えば、犬パルボウイルス感染症によって死亡した犬の場合は、胃や小腸の粘膜がウイルスによって破壊される(ウイルス性胃腸炎)が原死因、これによって頻繁に嘔吐し、吐しゃ物を誤って飲み込んで起こった肺炎(誤嚥性肺炎)が介在死因、そして肺炎による呼吸困難や敗血症が直接死因となります。同じ犬パルボウイルス感染症でも、介在死因が激しい嘔吐や下痢による脱水症で、直接死因が血液電解質の不均衡や循環血液量減少性ショックという場合もあります。死後検査では、死に至った過程を、剖検や組織病理検査などの方法を駆使して、できる限り明らかにします。この際、生前の飼育環境、予防歴、既往歴、臨床検査の結果、治療の内容とそれに対する反応といった詳しい臨床情報がありますと死因の究明に大きく役立ちますので、概略でも構いませんので診断医にお知らせください。

A2. ご遺体の死後変化(自己融解)、腐敗、損傷が重度の場合は、死後検査の精度が著しく低下しますので、死因を特定できないことがあります。このため、長時間の室温での放置や、冷凍庫での凍結(細胞内の水分が凍結により膨張し、細胞が破壊されます)は避けてください。また、剖検の時に調べたり採取したりする臓器が制限されると断片的な情報しか得られず、死因特定の妨げになることがあります。例えば、中枢神経症状が生前に見られた患者様において開頭検査の承諾が得られない場合は、この場合最も重要と思われる脳の検査が実施できず、死因の特定が困難となります。何事も100%完全ということがないように、死因も常に100%確定できるものではないことはあらかじめご理解いただく必要があります。弊社ではコスメティック剖検という、ご遺体を解剖後に綺麗にする技術を磨いておりますので、安心して開頭を含めた完全な剖検をお任せいただけます。

A3. 最も生前に近い状態、すなわち亡くなった直後の剖検が、最も精度の高い検査につながります。細菌感染症の場合は、病気と関係のない常在菌が、死後時間が経つにつれて体内で過剰に増殖し、正確な判断を妨げる場合があります。また、自己融解の進んだ組織では、細胞が本来の形態から大きく変化したり、分子構造が変化したりしてしまい、正しい診断ができなくなることがあります。ただ、我が国の室内飼育動物のほとんどは衛生的な環境におり、感染症よりも腫瘍、内分泌疾患、遺伝性疾患等で亡くなることが多いようですので、冷蔵(あるいは冷房した部屋の中)で半日〜1日程度経過していても大きな支障なく検査できることが多いと考えられます。この時間を有効に使って、死後検査を本当に実施すべきかどうかのご相談・思案をされるとよいと思います。

A4. ご依頼から最終報告まで2〜4週間お待ちいただくことになります。内訳として、主治医との打ち合わせ、剖検、縫合・清拭(コスメティック処置)等で4〜5時間かかります。大きな動物や病変が複数存在する動物では、剖検時間がさらに長くなります。組織病理検査には、ホルマリン固定された検体からプレパラートを作製し、鏡検が完了するまでおよそ2週間かかります。補助検査を実施する必要がある場合は、検査の種類等によって、最長で3週間ほどかかります。これらの情報を全てまとめた上で、剖検写真と組織写真を多数添付した最終報告書を作成します。結果をお急ぎの場合は途中経過をご報告することもできますが、状況によってご期待に沿えないこともありますのでご了承ください。なお、剖検所見と剖検診断を記載した「剖検報告書」は、同居動物や環境への影響が懸念されることもありますので、通常は迅速に(剖検後1~2日以内に)発行しております。

A5.原則的に伴侶動物(犬、猫、兎、愛玩鳥、フェレット、げっ歯類-モルモット、ハムスターなど-、爬虫類、両生類)の検査を行っております。家畜伝染病予防法で定められている馬、牛、水牛、鹿、羊、山羊、豚、猪、鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥の検査は行政の管轄ですので、都道府県の家畜保健衛生所にお問い合わせください。

A6. 主治医との打ち合わせ、実際の検査、縫合・清拭等で2〜3時間かかります。大きな動物や病変が複数存在する動物では、剖検時間がさらに長くなるかもしれません。組織病理検査には、ホルマリン固定された標本から切片を作製し、検査が完了するまでおよそ2週間かかります。補助検査を実施する必要がある場合は、検査の種類や実施機関の所在(国外のこともあります)によって、最長で3週間ほどかかります。これらの情報を全てまとめた上で最終報告書を作成しますので、ご依頼から最終報告まで2〜4週間お待ちいただくことになります。結果をお急ぎの場合は、途中経過をご報告することもできますが、状況によってご期待に沿えないこともありますのでご了承ください。

A7. 弊社では原則的に伴侶動物(犬、猫、兎、愛玩鳥、フェレット、げっ歯類-モルモット、ハムスターなど-、爬虫類、両生類)の検査を行っております。家畜伝染病予防法で定められている馬、牛、水牛、鹿、羊、山羊、豚、猪、鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥の検査は行政の管轄ですので、都道府県の家畜保健衛生所にお問い合わせください。

A8. 大変にデリケートな事柄のため、一概には申し上げられませんが、伴侶動物医療においては、治癒の見込みが低い(予後の悪い)状態に陥った患者さんに対して、苦痛を長引かせることを避けるために安楽死が考慮される場合があります。安楽死には、患者様のご家族の精神的な負担を伴い、複雑な心境は容易に察することができるものではありません。安楽死の方法については、米国獣医学協会 American Veterinary Medical Associationが定めたガイドラインがあり、英文ですがダウンロードして読むことができます。

A9. 2015年10月の弊社移転により、持ち込み、送付による剖検が可能になりました。詳しくは当ホームページをご覧ください。

A10. 剖検は原則的に非公開です。なぜならば、患者様のご家族、依頼主様、弊社の信頼関係の上で行われる検査だからです。剖検技術の習得等、学術目的での見学に関しては、ご相談に応じます。

A11. 厳密な区別はありませんが、個々のケースで、これらのいずれかの性質を帯びることがあります。

A12. 剖検を始める前の担当獣医師とのディスカッションで、感染症が疑われる症例かどうかおおまかに判断しますが、基本的に全ての症例において二次感染の危険性を念頭に置いた対策を講じます。すなわち、検査者本人を守るための服装・装備の着用を徹底し、剖検は原則的に乾式剖検という、水でご遺体を濡らすことのない方法をとります。剖検中に必然的に出る体液や汚物は消毒して適切に廃棄します。採取したサンプルを固定するホルマリンはそれ自体が強力な殺菌剤ですし、培養等に用いる生組織は冷凍保存し、消毒してから廃棄します。剖検器具は、消毒後に徹底的に洗浄します。家畜伝染病予防法の範疇の動物は弊社では原則的に取り扱いませんが、種を超えて生ずる伝染病に関して細心の注意を払い、万が一疑わしい症例に遭遇した場合は適切に家畜保健衛生所等の管轄機関に報告し対処します。

A13. 勿論、します。それは亡くなった生き物の必然です。ただ、匂いの強弱や種類は、動物種、死後経過した時間、季節、病気の種類、切開した臓器によって多種多様です。匂いが手掛かりとなって疑うことができる病気も中にはあります。しかし検査施設の近隣へのご迷惑を考慮して、剖検時間を必要以上に長引かせることは避け、空気清浄機や芳香剤を使用するなど、極力配慮いたします。慣れない方(獣医師、ご家族とも)は、剖検の雰囲気や匂いのために気分を悪くされることがありますので、十分にお気を付けください。

A14. いくつかの方法が考えられます。まずは、依頼主である獣医師の先生自身が、勉強会や学会で症例発表を行ったり、科学雑誌に投稿したりするものです。対象範囲は地域の同業者から世界中の獣医療関係者まで多岐にわたりますが、一つの貴重な症例から複数の人が教訓を得ることができます。次に、CPC(clinicopathological conference)があります。これは、患者様の担当獣医師が臨床経過、治療内容と反応、臨床検査結果等について発表し、病理診断医が死後検査の結果について発表し、互いがそれぞれのパートにおいて何がわかり、何がわからなかったのか学び、今後の教訓とするものです。CPCは医学領域では頻繁に行われているようですが、獣医学領域ではおそらくそれほど一般的なものではありません。他にも、獣医師が病変の肉眼像と顕微鏡像の関連性について理解を深め肉眼診断の力を養ったり、死後画像検査(オートプシーイメージング;AI)への協力を行ったりするなど、患者様からの貴重な贈り物によって数々の有益な活動が可能になります。

A15. ご遺体に敬意を払い、切開創を縫合し、体表を清拭し、依頼主様あるいはご家族にお返しします(縫合・清拭は精細な手技を要するため、オプション料金制となります)。動物の大きさ(小さすぎる、大きすぎる)や、病変の分布、検査時間の都合、美観を多少損ねるがどうしても調べなくては死因が判明しない部位があるなど、特殊な事情がある場合は、その都度相談させていただきます。原則として、ご遺体の処理は依頼主様あるいはご家族の責任で行っていただきます。昨今ではペットの葬儀を行う業者が多数ありますので、利用されるとよいかもしれません。

A16.第一は、剖検数が毎年減少傾向にあることに対する危機感です。獣医療が世界で最も進んでいると言われている米国では、以前よりも検体数は減少しているものの、今なお日本の数十倍(〜100倍以上?)の動物が死後に詳しく検査されています。これによって、新しい発見や、反省と改善の機会が得られているのです。日本でも官民問わず、動物の死後検査を廃れさせない努力が必要と思います。第二は、必然的に様々な役割を担わなくてはならず、剖検に十分な時間と人員を割くことできない獣医大学などの機関を補完する意味合いがあります。第三には、決して安価ではない検査料をいただいて商業ベースで死後検査をすることで、検査の技術・知識レベルを高く保つモチベーションが得られ、さらに未来の発展のために投資することができると考えています。

A17.剖検を今まで自ら行ってきた獣医師も、そうでない獣医師も、死後検査を委託できる会社が存在することは安心材料になると思われます。なぜなら、死後検査は非常に手間と時間のかかる検査ですし、病理専門医でなければ見落とす所見が数多くあります。また、当事者ではない、客観的な立場の第三者による死後検査が求められる場面も時にはあると思われます。もし私が臨床家だったら、弊社の死後検査サービスを依頼してはじめの何回かで検査のやり方を覚え、あとは状況に応じて自ら剖検するか依頼するかを適宜判断すると思います。一方通行になりがちなセミナーや学会と違って、病理専門医とマンツーマンで解剖したり症例についてじっくりディスカッションしたりできるため、サービスを依頼して得られるものは決して少なくないと思います。もちろん、病理診断医の側も、多くの教訓や知識を臨床の先生とともに吸収でき、互いにワンランク上の獣医療を目指すことができると思います。剖検手技を複数の写真と簡潔な記述で解説したポスターを弊社で販売しておりますので(獣医師用)、併せてご活用ください。