設立1周年&死後検査お断り事例

 平素より、弊社業務に多大なるご理解とご協力を頂き、心より御礼申し上げます。

 去る9月5日に弊社は設立一周年を迎えました。この1年間に、死後検査のご依頼が15件あり(死後検査は昨年12月より業務を開始しました)、組織病理検査は提携企業様~現在は株式会社新組織科学研究所様、株式会社モノリス様~を通じて相当数拝見させていただきました。セミナー、学会、獣医師会での講演の機会も与えていただきました。無謀な弱小企業としては、まずまずの滑り出しであったと、ホッと胸をなでおろしております。ご支援いただいた皆様には改めまして、厚く厚く、感謝申し上げます。

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 さて、このリンク(弊社ロゴやホームページ等、多くのデザインをお願いしている林裕也氏の作)にありますように、最近までは日本で唯一であった(現在では福岡県の旧友の動物病理検査所でも実施しています)「どうぶつの死後検査」は、変わらず弊社の看板事業です。ですが、まだ内容や目標を周知いただいていないと自覚しております。営業活動をサボらず続けていくしかありません。何はともあれ、本記事を読んでいらっしゃる方々は、弊社ホームページや事業紹介パンフレットを今一度じっくりとご覧いただくのが一番です。ご覧いただいたと前提として、弊社が死後検査をお引き受けして実施する際の3つの判断基準について、以下にお示しします。いずれかが満たされない場合は、関係各位にご相談やご説明をさせていただいた上でご依頼をお断りすることがありますので、何卒ご了承ください。

1.ご依頼主は、死亡した動物を詳しく診察・治療してこられた主治医であること!

→ どうぶつのご家族や飼育担当者様が死後検査を希望される場合でも、必ず主治医とよく相談の上、「死後検査承諾書」と「ご依頼書」に主治医に記入・署名していただき、弊社までFaxかメール添付(ご依頼書はホームページ上で記入と送信ができます)でお送りください。これらを確認させていただいた時点で初めて、弊社の死後検査の実務がスタートします。

2.弊社がご依頼をお受けするのは、死後検査によって「死因を追及」し、「命を後世につなぐ」ことを意図していることが明白な場合です。

→ 治療をめぐるトラブルなど、個人的かつ感情的な理由での死後検査は、後々多方面に禍根を残す可能性が濃厚です。もちろんその中には、獣医療にとって重要な内容を含む事例もあると思われます。命を提供してくれた動物に対して皆が残念な気持ちを抱いてしまうような悲惨な状況を避けるベく、死後検査のお問い合わせの際や、実際の検査の前のディスカッションで、この点は厳正に判断させていただいております。その結果、検査をしない結論に達した場合、検査料金はいただきません(ただ、交通費や夜間料金が発生する場合があります)。

3.興味のある部位だけの解剖検査はお断りいたします。

→ 弊社は、ご遺体から最大限学ばせていただくことをモットーにしております。「死因」は、全身各臓器を精査し科学的根拠を積み上げてから初めて論じることができる、物理的、精神的、学問的にもタフな検査の結末です。ですので、もしご依頼主様が「身体の限局的な部位に起こっている変化を知りたい」というご希望をお持ちの際は、死因を追及する作業の一環でない限りは、ご依頼をお断りすることがあります。

 弊社としても至らない点は多々ありまして、依頼主様からありがたいお叱りや改善のアドバイスを頂くこともあります。欧米で盛んで、日本でもかつては頻繁に行われていたどうぶつの死後検査を、より今日の社会状況に合わせて意義深く、使いやすくするために、弊社は今後も努力を続けて参ります。しょっちゅうかけていただく「せっかくの技術と理念を安売りするなよ!!」というお言葉にも励まされながら。

 よろしくお願い申し上げます。

   ノーバウンダリーズ動物病理 代表社員 三井一鬼

動物の病理検査施設 何が違う?

平素より弊社事業に多大なるご協力とご支援を賜り、誠にありがとうございます。

本日は、弊社診断医が顧問を務める 「新 組 織 科 学 研 究 所」 (敢えて文字間を一マス空けないと怖いイメージですので、試しにやってみましたが、やはり怖いですね)様の組織病理検査のご紹介をさせていただきます。

わが国には獣医大学が16校あります。大半において獣医病理学教室は研究活動や教育活動に力を注いでおられ、長きにわたって立派な成果を上げ、素晴らしい人材を輩出されています。その陰で、臨床に密着した動物病理組織診断サービスは民間の検査施設が担っているのが現状です。そういった民間会社は日本全国で20ほどあり、各社さまざまなポリシーで業務をしておられます。

各社のサービスは、顧客である臨床獣医師の先生方のみならず、その先にいらっしゃるどうぶつの患者さんやご家族までも視野に入れて展開されています。サービスの着眼点の例を挙げますと、

・検査料金

・検体受け取りから診断報告までの日数

・報告書(診断書)の読みやすさやデザイン性

・診断医の実力(学位、資格、経験等)と人数

・高次検査(特殊染色、免疫染色)の内容と実施状況

・動物種や疾患における専門性(得意分野)のアピール

・他の種類の検査(例:死後検査(剖検、病理解剖)、血液検査、PCR検査)との連携の有無

・戸別集荷/検体送料負担の有無

・報告書への写真(肉眼、組織)添付の有無

・大学研究室との連携

・セカンドオピニオンの実施状況

・海外との連携

その他、その他、と、非常に多岐にわたります。単純に考えると、全ての要素を満たすことができる会社の独り勝ちになりそうですが、実際にそのような会社はありませんし、たとえあったとしても不思議なことに独り勝ちにはならないと思われます。何故かと言えば、組織病理検査は「人間がする」検査だからです。人と人の相性があるように、組織病理検査を行う会社と臨床獣医師の間にも相性があります。なので、直接のお客様である臨床獣医師の先生方は、自らの希望に沿った会社や病理診断医を選んで使うことができるのです。このように選択肢が多い国は、世界を見回してもそう多くありません。

話を元に戻しますと、弊社の提携企業の一つである「株式会社新組織科学研究所」では、上記の多くの要素において平均点を目指す傍ら、以下の3項目においては他社に絶対負けない心意気で日々仕事をしております。

・診断医の実力

・報告書(診断書)の質

・高次検査のラインナップ

動物の病理検査会社としては老舗に含まれる(創立から約40年)新組織科学研究所では、診断医が最高のパフォーマンスを発揮できるように質の高い組織標本を作製したり、様々な染色法を用いて目当ての病原体や腫瘍の特徴等を可視化したりすることができます。読む人にやさしく丁寧な診断書も、大変ご好評をいただいております。診断書は基本的にPDF形式でメール添付して送付していますので(Faxは無料、郵送はオプションです)、iPad等のタブレットや診察室のPCモニターで拡大しても遜色のない画質の写真を、主治医の先生とご家族が一緒に見ることが可能です。以下に、診断書のサンプルを掲載したパンフレットをご用意しました。

 

獣医病理組織検査のご紹介 新組織科学研究所 

 

人の世界では、病理医が「小児科」「耳鼻科」と同じように「病理科」として看板を掲げることができるようになっていますが、獣医の世界ではまだです。しかし弊社やその提携企業様では、「獣医病理科」と看板を掲げたとしても恥ずかしくないような仕事を日々黙々と行っております。獣医師の先生のみならず、ご家族にもご指名いただけるくらいに努力を続けております。よろしければどうぞ一度、二度、検体を送っていただき、私どもの仕事ぶりを体感していただければ幸いです。

長くなり申し訳ありません。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

ノーバウンダリーズ動物病理 代表社員 三井一鬼

腎泌尿器学会でのQ&A

暑い夏が過ぎ行きつつあります。弊社で診断した熱中症疑いの病理症例は、とある動物園のオランウータンだけでした(確定診断は困難でした)。マスコミを通じた熱中症予防キャンペーンが、今年の酷暑にはかなり奏功したようです。

さて、去る8/25(日)の日本獣医腎泌尿器学会「下部尿路腫瘍の診断と治療」パネルディスカッションの全体討論で出た質問と、それに対するパネリストたちの返答を(記憶に頼ってやや大雑把な部分がありますが)まとめてみました。

Hydronephrosis TCC paraprostaticCyst K9 3774-07

  参考写真: 雄犬の膀胱三角部の移行上皮癌によって生じた両側性の水腎症および水尿管

・膀胱三角部の移行上皮癌(TCC)の尿管への浸潤の程度はどうなのか?
→具体的に何cmまで浸潤するなど、気を付けたことがないので正確にお答えできない。尿の流れに逆らって膀胱三角部の腫瘍細胞が尿管の起始部や腎盂まで及ぶことはないと思うが、局所での浸潤や、それによる尿管内腔の閉塞は十分ありうるだろう。今後の症例で注意してみたい。

・猫の膀胱腫瘍に遭遇することは稀だが、内訳として何が多いか?
→猫の膀胱腫瘍自体が少ないが、リンパ腫が多数を占めている(文献的にも)。TCCの報告は一例のみ。

・避妊雌犬でTCCの発生が有意に多いとのことだが、犬の避妊手術の前の飼い主さんへのインフォメーションに含めるべきか?
→それは正しいかもしれないが、過剰な感も否めない。TCC以外の悪性腫瘍で、避妊雌犬で統計学的に発生に多いものが複数あると思うので、そのようなインフォメーションをやり出したらきりがないのではないか。TCCの場合は、有意に多いと言っても未避妊雌犬の2倍で、TCC自体の発生率もとても多いと言えるほどではない。

・なぜTCCは膀胱三角部に多いのか?
→膀胱腫瘍を誘発する化学物質がいくつか明らかになっているが、尿に溶け出している化学物質に触れている時間が長い部位に腫瘍が生じやすいのではないかと、文献では推察されている。個人的な意見では、膀胱には空気が入っているわけではなく、尿はまんべんなく膀胱粘膜全周に触れているはずなので、濃度差が生まれるという理屈がよくわからない。他に、尿管から出てきた直後の、化学物質濃度が高い尿が三角部を常に通過するからではないか、との意見あり。

・TCCの皮膚転移を報告した論文(最新のVet Pathol)について、尿を経由して皮膚に直接移植されたとは、にわかに信じがたいが、真相はどうなのだろうか?
→ここで話題になっているCutaneous metastasis of transitional cell carcinoma in 12 dogs, Reed LT et al., Vet Pathol 50(4), 676-681, 2013. では、皮膚へのTCCの転移が陰部、鼡径部、腹部に頻繁にみられ、これらがTCCの際によくみられる頻尿、不随意排尿による「尿やけ」の好発部位であること、そしてTCCの細胞は尿中に浮遊していることから、尿経由の皮膚転移の可能性が高いのではないかと「考察」されている(証明はされていない)。質問者の言うように、未知のリンパ行を伝っての転移の可能性も十分ある。今後の症例の積み重ねが必要と思われる。蛇足だが、TCC罹患雌犬では、尿道開口部付近の膣粘膜に微小な結節が見られることがあり、調べるとTCCであることが多い。これは尿中に腫瘍細胞がこぼれ落ちていることを示している。

・TCCの細胞診で、「これが見えたら確定」という所見はあるか?
→明白に悪性という細胞と、明白に非腫瘍性という細胞は、細胞診でもかなりの自信を持って診断できる。問題は、中間的な所見を示す細胞である。悪性所見は一つではなく、N/C比の増大、核や細胞の大小不同、核膜の不整など、いろいろある。さらにTCCの細胞診は尿中にプカプカ浮いている細胞を調べるため、本来の細胞よりも悪性所見が誇張される。また、膀胱炎が背景にある場合も、細胞が過形成化して悪性所見と混同される。判断に迷う症例は、プロの臨床病理医に検査を依頼した方がよいだろう。

・TCCのある膀胱を全摘出してから1年くらいまでは小康状態を保つが、それから一気に転移することがあるが、なぜか?
→はっきりとは分からないが、遺伝子の変異が積み重なってある時点で一気に悪性度が増す可能性がある。

・TCCという診断名は同じでも、予後にかなりの違いがある。組織学的に乳頭状vs非乳頭状、浸潤性vs非浸潤性を組み合わせて4つのパターンに分類できるとのことだが、個々の細胞自体にも予後に関連した差異はあるのか?
→現在のところ遺伝子検査などは行われていないが、そのような差異はあると思う。同じパターンのTCCでも、腫瘍細胞の顕微鏡的な形態が違うことは結構あるので、何らかの分子生物学的な差異が形態に反映されていると思われる。これも今後、研究対象となるべき興味深い事柄である。

・TCCの組織学的グレーディングはあるのか?
→Classification of Canine Urinary Bladder Urothelial Tumours Based on the World Health Organization/International Society of Urological Pathology Consensus Classification, Patrick DJ et al., J Comp Path Vol.135, 190-199, 2006. という、人間の腎泌尿器病理学者らが作った組織学的グレーディングを犬の膀胱腫瘍に試しに使ってみたという論文がある。これによると、人間の分類が犬の膀胱腫瘍の分類にうまく使えたそうである。ただ、こういったグレーディングは個人によって使ったり使わなかったりすることが往々にあり、混乱のもととなるので、やると決めたら大勢の獣医病理医が集まって一緒に講習を受けて意思疎通を図るなどしなければならないだろう。なお、上記のグレーディングはあらかじめ決められた所見に合致するかどうかで判断され、点数制ではないため、個人的には客観性の担保にやや疑問を感じる。

<注> 今回の下部尿路腫瘍のワークショップの内容は、株式会社ファームプレス様より年1回(11月)発行される「日本獣医腎泌尿器学会誌」に収録されます。弊社代表の「下部尿路腫瘍の病理診断」や獣医大学の第一線の臨床の先生方の貴重な情報など盛りだくさんですので、お楽しみに!