2024欧州獣医病理学会(ECVP)参加記

海外学会に持っていく手のひらサイズの手帳には、今回も判別困難な走り書きがのたうっています。それらも参考に、恒例の出張報告をさせていただきます。出張に伴いご迷惑をおかけした獣医師の先生方、飼い主の皆様、動物たちには、この場を借りてお詫びと御礼を申し上げます。今回の参加記は、思いがけずパソコン仕事が可能な時間がふんだんに得られたので、いつもより長めです。

上の写真:エル・エスコリアル修道院から下ったあたり。放牧場のような庭園が広がります。

今治とエル・エスコリアルの往復(イスタンブール経由)について、今年は特にハプニング(飛行場には出発3時間前に到着を厳守!「アテネの悲劇」(過去のブログ参照)の教訓)もなく、ノロノロと厄介な台風10号にも奇跡的に影響されませんでした。また、マドリードにかつて留学していた日本人の獣医師の方に事前に質問して様々な情報を得ていたおかげで、国内移動は地下鉄とバスでスイスイ、スリにもひったくりにも遭いませんでした。スペインは軽犯罪遭遇率が高めと聞いていましたが、別の友人のアドバイス「犯罪は目力で制す」を実践したのも良かったと思います。私が若いころに活動した東南アジアのラオスで、防犯関連講座の講師が強調していた「ハードターゲットになれ」ということです。スキを見せないことや、行動パターンを読ませないことが、犯罪に巻き込まれる危険性を下げるのに重要です。まあでも、たまたま幸運だっただけかもしれませんし、瀬戸内海釣行でこんがり日焼けしていた私が日本人に見えなかった可能性もありますので、やはり旅行者は常に油断しないことが重要です。

スペインに入国後、一直線に学会会場の街、エル・エスコリアルを目指しました。マドリード郊外は平坦で地中海性気候のエメラルドグリーン系の植生+岩がちの土壌が目立ち、猛暑のせいでけだるい感じ(バスもエアコンが効かず暑い!)でしたが、バスが山道を登り始めて避暑地めいた森の中を進むとほどなく、500年以上の歴史をもつ壮大な修道院(世界文化遺産)の傍らにたたずむ、石畳の坂と石造りの小柄な建造物が凝縮したエル・エスコリアルに到着しました。修道院の内部を学会が始まる前に観覧しましたが、その広さ、部屋の多さにまず圧倒されました。また、歴代国王の棺が納められたスペース(写真撮影禁止)は息をのむ緊張感に包まれ、金色の棺が壁に何段にもぐるりとしつらえてある様に衝撃を受けました。多くの修道僧や役人が仕事をしたり往来したりしたであろう執務室や廊下は、あちらこちらが靴底で滑らかに削られていました(観光客のものかもしれないですが)。日本の室町時代に、こんな石造りの巨大な建造物が建ち、スペインが世界の海と陸を牛耳っていたことを思うと、歴史のうねり・変遷にあらためて驚きました。今現在の「大国」も、今後大国のままでいられるのかどうか、誰にもわかりませんね。そして、今回のECVP学会の会場は修道院の近隣にある大学施設で、こちらも同様に歴史を感じる石造りでしたが、この建築様式が後日私に降りかかった思わぬハプニングの原因となるとは(後述)!

上の写真:エル・エスコリアル修道院。見上げると首が痛くなります。

学会では、これまでの欧州学会参加で体験した、

・拍手が長く、大きい

・質疑応答が活発

・女性参加者が過半数

・国籍多様、英語が共通語、英語下手でも関係なし

はデフォルトとして私の中に定着したようで特に驚くこともなくなりました。逆に、日本の学会に出るとスーツ姿の男性の群れに違和感を覚えるようになってきました。以下、学会中の見聞を独自目線で選抜してご紹介します。「:」の後に、私の感想が入っていることもあります。

上の写真:歓迎レセプション(飲み食い)の前に、スペイン音楽を堪能!

  • 毒性病理分野の神経病理検査

・毒性病理学会(STP)では剖検の際に50種類近い臓器の採取を推奨している。:私が行っている伴侶動物の死後検査では多くても約30種類なので、50はすごい数!

・神経系のサンプリングについてはケースバイケースの対応となっている。以下は、参考文献。

Rao DB, et al. Toxicol Pathol. 2011;39(3):463-470.

Rao DB, et al. Toxicol Pathol. 2014;42(3):487-509.

Bolon B, et al. Toxicol Pathol. 2018;46(4):372-402.

・例えば、ラットとサルでは脳の大きさが大きく異なるため、両者とも脳から7スライスの採取が必要だが、作成されるガラススライドの枚数はラット7に対してサル24と大きく異なる。さらに、被験物質の性質によっては精査すべき部位が増え、必要枚数がさらに増えることもある。

・昨今汎用されているデジタルパソロジー(バーチャルスライド)は、神経系の微細な病変を見逃す可能性があるため(焦点深度を変えて複数の画像を合成するZ-stackの機能はあるが、生成されるデータ量が膨大になるため実際に使われることはない)、「ガラス標本」の鏡検が望まれる。:デジタルパソロジーの利点は多くの人が認めるところですが、「限界」についても病理医、臨床医、企業経営者、学生等、すべての利害関係者が理解すべきと思います。

・毒性分野では、臨床で普通に行われているような神経学的検査(生前の神経系の評価。臨床徴候や刺激への反応から神経のどこが問題なのかをつきとめる)が行われていない。これからは、簡潔でもよいから行うべきである。:神経学的評価は熟練を要するので(専門医制度があるくらい)、そんなに簡単には行かないと思いますが、避けて通れないかも。

・脳を分子生物学やプロテオミクス解析に使うときのサンプリングについて、PBSではなく生理食塩水で脳をリンスして表面に付着した骨粉などを除去し、氷で冷やしたホルマリンで固定し、引き締まった脳を、茹で卵を切るようなデバイスで「切りきらず(7~8割まで)」スライスする(刃を途中で止める)。

・神経組織の形態検査に用いられる鍍銀(とぎん)染色には多くの種類があり、それぞれの強み・弱みを把握することが大切。:染色の際に用いる「水」によっても結果が変わったり、赤血球が陽性となって結果の解釈を混乱させたり、鍍銀といいながら黒色にならない染色もあるそうです。

  • 人工知能AIの波

「組織画像をAIが読み、組織所見の下書きを作ってくれる。」

「精細管の精子形成のステージ分類をAIがやってくれる。」

・扱う検体の数が非常に多い毒性病理分野では、生身(なまみ)の病理医の仕事を助けるための上記のような骨の折れる作業を皮切りに、積極的にAIが導入されつつあります。今回の学会は毒性病理とのジョイントということで、企業ブースにAI企業が複数みられました。安全性試験は質と量の両面において多大な労力を必要としますので、毒性病理分野が獣医分野のAI化を牽引する一つの重要なセクターであることを実感しました。いつの日か、これが伴侶動物病理分野まで及ぶのだろうか、だとしたらどういう形で?と、興味は尽きません。

  • Dr. Engelhardt(ベルン大学)の血液脳関門研究に関する基調講演

・詳細は下の総説論文に譲るとして、これぞ一流研究者の圧巻の発表!という感じで、聴き入ってしまいました。ど素人にも楽しめるように話せるのが、すごい人の証です。講演の最中、Nabeshimaらの、血液脳関門の電子顕微鏡写真(下の引用情報参照)を何度も紹介していて、日本人として誇らしいと思ったら、Nabeshima先生の当時の所属はアメリカのNIHでした。一見すると地味な形態学的研究も、半世紀近く経って後世の先端研究に影響することを改めて実感し、目の前のことを手を抜かずにやっていく大切さを実感しました。

・Engelhardt B, Vajkoczy P, Weller RO. Nat Immunol. 2017;18(2):123-131. 

・Nabeshima S, et al. J Comp Neurol. 1975;164(2):127-169.

  • 皮膚科ラウンドの症例

・猫の鼻の結節、硬化性好酸球性蜂窩織炎sclerosing eosinophilic cellulitis:日本の獣医病理学者(尾崎先生)の論文が引用・紹介されていました(顔見知りの先生の仕事が紹介されるのは嬉しいものです)。猫では細菌感染(ラウンドの症例は黄色ブドウ球菌)が、著明な好酸球の浸潤と活発な線維増生を引き起こすことが多く、好酸球性肉芽腫との鑑別が重要とのことでした。

・犬の大腿内側の壊死性筋膜炎necrotizing fasciitis:マスコミが「人食いバクテリア」という、わけのわからない名前を付けている細菌感染症(連鎖球菌)ですが、動物にも起こります。大型犬、雌よりも雄、後肢や頚部に起こりやすいそうです。示されたのはボクサー犬の症例で、肉眼像を見たときは「これはヤバい(亡くなったかな)」と思いましたが、その後、治療の甲斐あって回復したと知り、安心するとともに、早く適切な診断をつけることの大切さを実感しました。

・斑状の脱毛を呈した7歳、避妊雌、ラブラドールレトリーバー:脱毛のパターンが斬新でしたが、結論としては副腎皮質機能亢進症でした。どんな疾患にも、非典型例というものがあることを肝に銘じた症例でした。

・4歳、避妊済雌、フレンチブルドッグ(アメリカで現在人気No.1とのこと)の皮膚結節:犬の皮膚組織球腫のように見えたが実はMycobacterium chelonae感染症だった症例。侮ることなく特殊染色をしなさいというメッセージでしたが、ラウンドのコーディネータのDr. Affolter(著名な獣医皮膚病理学者、アメリカから招待)の「私はグラム染色が嫌い」というつぶやきに同感でした。日本では、ヘマトキシリン・エオジン(HE)標本を見る前から病理切片にいろいろな特殊染色(グラム染色、PAS反応、鍍銀染色等)をする検査機関や診断医がいますが、HE標本で所見を取って診断(鑑別診断)をつけてからやれば、無駄な検査や頓珍漢な診断が減るのに、と思っております(個人的な意見ですが、日本以外では主流だと思います)。

・7歳、避妊済雌、ジャーマンシェパードの上唇溝の両脇の線状・出血性病変:これは初めて知りましたが、この犬種特有の、いまだ病理発生が不明な血管増殖病変とのことです。下の文献が参考になります。知っているか、知らないか、が運命を分けますので、診断医としては引き出しを増やせて幸運でした。

Fleischman DA, et al. Vet Dermatol. 2023;34(5):441-451.

・3.5歳、避妊済雌、ドーベルマンピンシャーの多発性異形成性黒色細胞腫症候群multiple dysplastic melanocytoma syndrome:SLC45A2遺伝子変異に関連した白あるいは薄いクリーム色の被毛を持つドーベルマンの皮膚において、毛球に空胞化した細胞が存在し、これがメラノサイトか毛母細胞かで議論が長い間続いていたそうです。免疫組織化学によって、空胞を持つ細胞はMelan AやPNL2、SOX2に陽性と確認され、今ではメラノサイト由来と考えられているとのことでした。聞いたことがなかった診断名なので、冷や汗をかきつつメモしました。参考文献は以下の通りです。

Winkler PA, et al. PLoS One. 2014 Mar 19;9(3).

  • 無脊椎動物病理が熱い

・今回のECVP、そして11月のACVP(米国獣医病理学会)、どちらにおいても無脊椎動物病理のワークショップがプログラムに入っています。無脊椎動物は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類を含まない、きわめて大きな生物のカテゴリーです。イカ、タコ、貝、昆虫、サンゴ、蜘蛛、等が身近な例でしょうか。無脊椎動物は極めて環境中の毒に弱いことから生態系の汚染・変化のモニターとして重要であることや、食物連鎖の中で脊椎動物を支えたり、人間社会に大きな恩恵をもたらしたり(例:蜜蜂)、将来的にはヒトや動物の飼料としての役割も期待されているという話がありました。逆に、病原体を媒介する生物や、害をもたらす生物など、敵としてよく研究しなければならない無脊椎動物も数多く存在します。そんな大事な生物群の形態学的解析は、いま大きな注目を浴びて発展中で、ワークショップではいろいろな種の基本的特徴・構造や、形態学的検査の勘所、役に立つ文献等々を講師が話してくれました。詳細は、11月に参加予定のACVPでのワークショップの見聞録とあわせて報告したいと思います。乞うご期待!

・そもそもなぜ獣医病理医が無脊椎動物の検査をするのか、ですが、生き物の正常と異常に精通していることと、医学部、理学部、農学部等と違って、普段から「多種多様」な生き物を扱うのが当たり前の世界にいるからではないでしょうか(あくまで私見です)。ちなみに、私の研究室の学生の研究テーマには「フナムシの組織形態学的解析」と「サツマゴキブリの組織形態学的解析」というのがあり、面白いけれど前途多難であることを実感しております。若い世代がこの分野に興味を持ち、飛び込んでいくのをあと押しするためにも、欧州と北米の現在地を確かめて報告したいと思います。

  • 腫瘍診断関連

・日本の獣医学は国内外の医学や、欧米の獣医学を手本として発展し続けていますが、欧州の獣医学は医学をお手本にしているようで、米国の獣医学を尊敬するというよりはちょっと年上のきょうだいのように見ている節があります(私見)。日本の獣医学のことをどう思っているのかは、まだちゃんと聞けていませんが、どうでもいいことのような気もします。

・あるセッションでは、人の腫瘍のWHO分類で新しく改定された項目を、獣医腫瘍病理診断に即して説明していました。人という別種の生物の診断基準をそのまま獣医分野に持ち込むことはできませんが、医学分野で着目している様々な項目(腫瘍の遺伝子診断、新しい免疫組織化学マーカー等)は、我々にとっていつも大きな刺激と教訓になります。

・以下は、伴侶動物の腎臓腫瘍の説明で強調していた診断名の一部です(詳細は紙面の都合で割愛)。

Renal cell carcinoma (RCC)のsarcomatoid changeと、Sarcomatoid RCC

Multilocular cystic RCC

Collecting duct carcinoma

Renal interstitial tumor

Mesonephric nephroma

・別のワークショップでは、腫瘍の予後判定の標準化ということで、「有糸分裂像の計数」と「腫瘍細胞のリンパ管浸潤」について、実際の症例の写真を複数、事前に(学会前に)参加者にメール送付して評価させて集計した結果に基づいて進められました。病理診断医というのは、訓練中は多くの人と議論しながら自分の診断力を磨きますが、専門医資格を取って独立すると、ついつい面倒くさくなって「わが道」を行ってしまうものです。そのため、同じ標本を見ても所見が違う、診断名が違う、有糸分裂像の数が書かれていない、診断名が同じでも良性・悪性の判断が違う、ということが頻繁に起こります。その意味で、このワークショップは基本的な作業(どういう組織学的特徴を根拠に有糸分裂像や脈管内浸潤と判定するのか、惑わされやすい類似所見とはどういうものか、等)を通じて、診断の客観性と普遍性を高いレベルに保ちたいという意図がよくわかり、秀逸でした。ワークショップの最後に講師が「我々診断医は診断をしているのではなく、best guess(最も答えに近いと思うことを推察する)やapproximation(近似)をしているにすぎないことを肝に銘じてください」と言っていたのがグサッときました。所詮人間が完全な判断をすることなどないというのは、古今東西の常識ですが、病理診断もその一つにすぎませんので、せめてそれに近づく悪あがきは続けましょう。

  • 獣医法医科学ワークショップ

・毎回のように参加している法医学のワークショップ、今回は参加者から事前に募った報告書をいくつか取り上げて、改善点を講師陣が指摘したり皆で議論したりしました。その一つに私が書いたものも選ばれ、実際に法廷に呼ばれた経験のある各国の獣医病理専門家達から、実践的なアドバイスを得ることができました。こちらも、書けば長くなるので、日を改めて、無脊椎動物のトピックとともに、11月のACVPのワークショップと比較しつつ触れたいと思います。

上の写真:学会場の中庭。とてもよく手入れされていました。

その他、雑記

★学会運営上「真似したいこと」

・投げて渡せるマイク:サイコロ型のクッションがマイクになって(マイクが内蔵されて?)いて、会場係の学生が質問者に投げて渡していました。並んだ客席の中ほどに座っている人も質問しやすいし、見ていてほっこりするので、いいアイデアだなと思いました。どこで売っているのかは不明。

・発表者用モニターが床の上に設置されている:演壇の床に、演者を向くようにモニターが置いてあり、演者は聴衆に体を向けて、目線をさほど落とさずに発表できていました。演壇にモニターがあるとどうしても下向き加減で、会場を無視したような話し方になってしまうので、これもいいアイデアと思いました。

★熱中症?

・会場となった部屋の多くにエアコンがなく、スペインも日本のような暑さが連日続いていて、夜のセッション(お酒を飲みつつ病理診断ラウンド)の際に短時間ですが目の前が白くなって意識をほぼ失ってしまいました。周りの方にはご迷惑をおかけしました!後から考えたら、満員御礼の石壁の部屋で逃げ場のない暑さの中、腕まくりとはいえ長袖で、ビールを飲んでいたので、熱中症の軽症版だったと考えています。幸い大事には至りませんでしたが、次の日も暑い部屋でボーっとなったので(再現実験)、そう考えた次第です。今回の学会の事前案内に、

DRESS CODE

Not all areas in the congress venue are air-conditioned, therefore we recommend you to dress lightly for warmer weather.

と書いてあったのを過小評価していました。半そで、短パン、うちわ(そういえば学会のノベルティーに、日本の企業の扇子が入っていたので、常に携帯すればよかった!)、これが温暖化時代の学会正装になるかも?来年のトリノの学会の教訓にします。ただ、アメリカの学会は逆にクーラー効きすぎですので、3枚くらい着るのがおすすめです。。。

★邂逅(かいこう)

病理診断医になるために必死に研修した3年間を共に過ごしたインド出身の友人に、16年ぶりに会いましたが、互いにあまりにも(外観の)変化がなくて笑ってしまいました。彼はいま世界的な製薬企業で働き、ボストンに住み、娘さんをアメリカの一流大学に入れ、順風満帆のようでしたが、動物の正常組織の観察という初歩の初歩から一緒に学んだ日々を思うと「意志あれば道あり」ってこのことだよなあと思います。幸せの基準は違いますが、お互いの分野で、充実した毎日を送ることができれば!と思いました。

★やまおかさん

エル・エスコリアルでの晩御飯は学会の歓迎レセプション、東京農工大学やコネチカット大学の知り合いの先生方との会食、徒歩圏内の仏系スーパーで買った食材のほかに、一晩だけ、町の中の和食レストランを一人で訪れました。Taberna Yamaokaに午後9時すぎ(スペインではレストランがオープンするのが日本人の常識に比べて非常に遅く、午後9時開店でした)に入ると、「ヤマオカの友達か?」と聞かれ、違うと答えたのに、奥の中庭の席に案内されました。ほどなく、日焼けした初老の日本人男性が話しかけてきてくださり、この方がオーナーの山岡さんでした。ご自身曰く、もともとアーティストであり、バブルがはじけた後に知り合いがこの場所でレストランやるので君に任せたいということで日本から移り住んだとのこと。お店はとても繁盛しており、マドリードに支店があるそうですが、そちらには国のお偉いさんもお忍びでくるとか。スペインには、ハポン(スペイン語で日本という意味)という姓の人が多く住むコリア・デル・リオという地域があり、テレビやネットでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、そこで行われる日本祭りのようなイベントの芸術コーディネートもしていらっしゃるそうです。レストランを訪れる人のひとりひとりに歩み寄って挨拶をする山岡氏を、お客さんやお店の人が皆「ヤマオカ」と呼び捨て?にしているのが、私にとっては面白い光景でした。地元で深く愛されている日本人を見るのは、よいものだなあと思いました。料理は、ザ・和食というよりはスペインの人に合うようにアレンジされており、満足でした。

★マドリード

スペインの有名な獣医大学を学会直後に表敬訪問する予定でしたが、学会運営に当たられた地元の先生方のご多忙ぶりから察せられるように、この訪問の機会は消滅してしまいました。また、今年はサッカーの試合がないときにマドリード泊となってしまいました。ということで、ノープランでマドリードのホテルに到着し、適当に散歩をして偶然入ったのがMuseo Nacional Centro de Arte Reina Sofíaでした。芸術には疎い私ですが、いくつかの絵に魂を持っていかれる思いがしました(絵の名前と作者をメモしてきました)。ゲルニカという有名なピカソの絵もありましたが、私にとってはこれらの方が、画家の想いが強烈に伝わってくる気がしました。絵の力に触れて、翌日はMuseo del Pradoに開館と同時に乗り込み、空港までの移動時間ぎりぎりまで、足腰が痛くなるまで絵画鑑賞を楽しみました(が、すべて見るには至りませんでした。おそるべき収蔵量)。今回の出張では、絵をみる面白さも知ることができ、ちょっと年を取ったのかもなという気もしました。スペイン語は耳に心地よい、高速タイプライターのようでした(あれ、日本語もそう聞こえると聞いたことがあります)。もう一つ言葉を学ぶとしたら、スペイン語がいいかななんて思いました。そして、ドラエモンのアニメが夜9時からスペイン語吹替でやっていたのもビックリしました。こちらは言葉がわからなくても98%くらい理解できました(笑)。何かをわかるのに、言葉が大事なこともあれば、言葉じゃない場合もある。そんなことも教えてくれたスペインでした。

上の写真:マドリード市街

さて来年はどんな学会になるのか。また、ご報告します。感想、ご要望、修正希望等ございましたらお知らせください。