2019 ACVP学会参加記

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。既に2か月ほど前(昨年)のことになってしまいましたが、アメリカの学会に参加して感じたことを雑文にまとめましたので、お時間のある時にお読みいただければ幸いです。

 

昨年4月に岡山理科大学獣医学部に赴任して心配していたことのひとつは、「大学の仕事のために、米国獣医病理学会年次大会(以下、ACVP学会)に参加できないのではないか?」ということでした。幸いにも11月初旬は担当の実習・授業が無いことが判明し、そそくさと6月に航空券を買って楽しみにしておりました。日本の獣医病理学関係者、とくに大学の教員にとって、11月初旬は学生の卒論指導等で大忙しの時期です(ということは、岡山理科大学獣医学部でも、いずれACVP学会参加が厳しくなるのかも)。日本の優れた獣医病理学の研究成果を世界に向けて生でアピールできるチャンス、そして、世界中から集まる獣医病理学関係者と直に接して信頼関係やコネクションができるチャンスがACVP学会なのですが、日本のアカデミックスケジュールに阻まれて、毎年ほんのわずかの人数(今年は大学教員がたったの2名)が参加するにとどまっているのはとても残念です。ちなみに昨年は、アジア出身者としては台湾人研究者の学術発表が大きなインパクトを残していました。また、中国の潜在能力を考えると、近い将来、アジアの獣医病理学の勢力図は大きく変わるかもしれません。日本は規模では徐々に埋もれていくと思いますが、キラリと光る、また、多くの人に役立つような研究ができるように、世界の趨勢を見知っておく必要があると感じております。今年はシカゴで学会が開催されます。直行便でひとっとび、エンターテインメントが豊富な美しい街並みの大都市ですので、是非多くの日本人に参加してほしいと願っています。

 

本題ですが、2019年11月9日から13日まで、アメリカ南部のテキサス州にある、軍事的要衝の街「サン・アントニオ」にて、ACVP学会(米国獣医臨床病理学会ASVCPと常に共催)が開催されました。渡航の際に驚いたのは、成田でも、アメリカの空港でも、顔認証システムによって出入国の審査が格段にスムースになっていたことです。愛媛県の松山空港から飛行機(エコノミークラス)を3機乗り継いで20時間ほどかけてサン・アントニオに着きましたが、このスムースさのおかげもあってか、普段ほど疲れませんでした(やせ我慢、かも)。サン・アントニオ自体は変哲もないアメリカの大都市で、私が昔暮らしたインディアナ州を彷彿とさせました。でも、住めば都なんですよね、どこでも。学会会場は大きなホテルで、リバーサイドウォークという観光地にほど近く、5泊6日の滞在は快適でした。

サン・アントニオ観光の中心、リバーサイドウォーク

毎回ACVP学会に参加して飽きずに感銘を受けるのは、女性の病理関係者の多さです。大袈裟かもしれませんが、今回は、学会参加者(1,000人には届かないと推定)の7割近くが女性だったような気がしました。学会の理事も女性が過半数を占め、講演も女性が盛り上げと、日本では残念ながら見ることが難しい光景でした。アメリカの獣医学部において女子学生が7割近くを占めていますので、卒業して就く職業においてもそうなるのは自然かもしれませんが、学会の中枢にもその比率がしっかり反映されているのは、個々人のプロ意識が高いことや、社会制度の整備ができているからではないかと推測します。私が現在働いている大学の研究室では構成員3名のうち、私の上司にあたる2名が女性で、全国的にも珍しいと思います。女性が多数要職に就き、組織を動かし、様々な視点を採り込んで活気のある学会なり職場なりにしていくことが当たり前になるように、皆が意識して改善をしていかなくてはと、ACVP学会に来てあらためて感じました。

 

もう一つ、今回「うねり」を感じたのは、マイノリティーに寛容な学会にしていこうという決起集会のようなものがあったことです。性別、人種、性的指向を理由にした「壁」は、どうやらアメリカの獣医病理コミュニティーにおいても存在した/しているようです。とある発表者は、20年ほど前には黒人の女性が大学教員になることにハードルがあったと述べていました。そういった苦境を乗り越えて来た人、乗り越えようとしている人、関心を持つ人が狭い部屋にすし詰めに集まり、diversityの重要性、diversityが産む力についての演説を聴いたあとで、ネット上のアンケートに応え、最後に盛大におしゃべりや飲み食いをしていました。う~ん、これぞアメリカという気がしましたが、本来アメリカであればそんなことは解決済みだと思い込んでいたところ、まだまだ根深い問題としてあるのだな、生きづらいのだなと気づかされました。

 

学会の本番が始まる前日には、お金を別に払って参加する1日がかりの勉強会(いくつかのコースがあり、一つを選択する)があるのですが、今回私は「霊長類の病理」について網羅した勉強会に参加しました。ここでも講師もコーディネーターも全て女性で、様々な種類の霊長類の形態病理や臨床病理について概観してくれて頭が整理できました。獣医病理医はあらゆる動物種に対応できるように、研鑽を積まなければならないので大変です。

 

学会のメインである講演やポスター発表についての報告は、すべてを網羅することはできませんが、北米以外の国からの発表者が目立った気がしました。ポスター発表については、例年と方法が変わって、細かく発表時間を区切って、限られたスペースでより多くのポスターが人の目に触れるようにされていました。特に、獣医学部生やレジデント(研修生)といった若い人たちの発表(賞が設けられている)のポスターは長い時間掲示されていて、もちろん採点者の便宜のためでもあるのでしょうが、前途のある人たちにより多くの機会を与えようという配慮がうかがわれました。私も、学会前ギリギリのタイミングでポスター発表の機会を得て、岡山理科大学獣医学部で実施した剖検症例を紹介したところ、数人が立ち止まって説明を聞いてくれました。症例に携わった臨床の先生方や、亡くなった動物の飼主様にある程度報いることができたと思っています。当初は別のトピックで口頭発表を狙っていたのですが構成が未熟だったためか、夏の審査で落選してしまいました。ACVP学会での発表は、口頭でもポスターでも、抄録の事前審査があるので、今年はしっかり策を練って臨みたいと思います。

 

学会ポスターの様式は時代とともに様変わりしており、各自が工夫を凝らして人の目を惹くようなあの手この手を繰り広げていました(一部を写真で紹介します)。今後、学生さんにポスター発表の仕方を教える際に参考になることも多くありました。また、私自身が、いくつものポスターから学び、著者に質問して研究に関わるヒントを得ることができ、有意義なポスターセッションでした。

ICタグにスマートフォンをかざすと、詳細な資料が得られる仕組み。

オーソドックスなポスター。病理形態学では写真がモノを言います。

口頭発表で鮮明に覚えているのは、バリバリの学術発表ではない話でしたが、The End of the Beginning: Cancer, Immunity, and the Future of a Cureという本の著者であるWashington UniversityのMichael Kinch博士の講演です。腫瘍の研究の歴史を、様々なトピック(ロックフェラー・ジュニアが子供のころに唯一心を開いていた女友達が腫瘍で亡くなり、のちに医学研究のために大学をひらいたという逸話から、昨今の免疫チェックポイント阻害薬の開発に至るまで)を織り交ぜながら、聴衆を飽きさせることなく1時間ほど惹きつけ続け、最後は万雷の拍手でした。講演(口演)についてACVP学会でいつも目にする日本との違いは、カンニングペーパー(パワーポイントの発表者モードに書き込んである文章や、紙やスマホに書いた文章)をACVP学会では皆、一切使わずに発表することです。アメリカ人にとって一番の恐怖は人前でスピーチすることだと、以前に留学中に受けたクラスで教わりましたが、それだけスピーチ、プレゼンにはこだわりがあるのでしょう。ずっとカンペに目線を落として完璧を期すことを狙う日本人研究者のスピーチには、ジョークも、聴衆の反応をうかがう余裕もありません(間違いを排除した発表をすることが目的、まあ、それはそうなのですが)。人を動かし、好奇心と記憶力を刺激する発表の実例を、特に若い人たちには是非、海外に出て行って感じてもらいたいなと思いました。

 

個人的に興味を持って聴いた口頭発表として、Insect pathology、すなわち昆虫病理学がありました。昆虫はいま、食糧難や環境問題を解決する蛋白源として注目を集めています。また、植物の大敵である昆虫を、昆虫にしか感染しないウイルスで撲滅する「生物学的駆除」のトピックもあります。なぜ獣医さんが昆虫を?と思われるかもしれませんが、獣医師法で獣医師の守備範囲とされている生物にはミツバチが含まれています。魚もそうですが、世間一般には獣医さんの仕事の対象と思われていない動物種が、実はたくさんあるのです。昆虫病理学は、世界各地で、歴史古く発展してきた学問ですが(日本でも養蚕が盛んな頃はカイコの研究が多くなされ、東京農工大学の「農」は養蚕研究機関が母体でした。東京の小金井市にある農工大博物館は面白いですよ!)、昨今は獣医学研究が医学寄り、分子生物学寄りになりがちなので、あまり従事する人がいないようです。だからこそチャンスなのかもしれません。膨大な種類が存在し、自然界を支えている昆虫たちの病気の解明を目指すのも、獣医師のロマンではないでしょうか。

 

学会5日目(最終日)に行われた獣医法医科学の半日がかりのワークショップに、昨年に続き参加しました。この内容は、昨年12月に大阪府立大学で行った講演の際に詳しく話しましたが(下記パワーポイント参照)、人の法医学のシステム立ち上げや検査手技の標準化の実務経験のあるゲストスピーカー達(非獣医師)が、実例を豊富に交えて、我々獣医パソロジストへのアドバイスを山ほど提供してくださいました。獣医法医科学はとにかく金にもインパクトファクターにもならない学問分野ですので、日本では見向きもされなかったり、逆に、獣医病理専門医ではない方々によって運営されていたりするようです。動物の世界では、法律的に非病理医が行っても構わない検査ではありますし、法医学自体が裾野の広い学問ですので入口はたくさんあっていいと思いますが、病気のメカニズムを探求してきた/いる者(獣医病理専門医)がしっかり携わらないといけないのだなと、今回のワークショップにおいて感じた次第です。

シンポジウム内容抜粋①

シンポジウム内容抜粋②

今回の学会では学術活動の他に、いくつもの胃が痛くなるミッションを授かって(押し付けられて?)いました。JCVPという、日本版ACVPのような団体があるのですが、この団体の役員の先生がどなたも参加されないため、平JCVP会員の私がVIPディナー、Veterinary Pathology誌編集委員会、ACVP理事との懇談およびJCVPの紹介という「3重苦」を担うことになりました。最後の懇談および紹介の場には助っ人の日本人の病理医がついてきてくれて気が楽でしたが、あとはかなり戸惑いました。VIPディナーでは特に、周りがみな重鎮で皆知り合いどうし英語でワイワイ話しているところに下っ端の私が一人参加した形のため、完全に浮いてしまい、始まる前は「帰れるものなら帰りたい!」と心から思いました。実際レストランについてみると、たまたま隣に座った初老の男性が非常によくしゃべりかけてくれて、日本の名古屋大学の医学部に研究パートナーがいて日本には何度も行っているとのことで話題を次々に提供してくれて、本当に地獄で仏に会った気がしました。この方はJerrold Wardさんで、NIHに長年いらしたそうなので、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。レストランからの帰りのバスでは、獣医骨病理学の大家であるオハイオ州立大学のSteven Weisbrode先生と隣になり、酪農学園大学に行ったことがあるという話や、いつか日本に講演にお招きしたいという話も(ほろ酔いも手伝って)することができ、緊張の3時間を終えることが出来ました。寿命が縮まる思いでしたが、結果オーライということで。ただ、今年はちゃんと日本の重鎮の先生に出席していただきたいと思っております。

寿命が縮んだディナー

ACVP学会では数時間程度の小さな観光をたいていする私ですが、サン・アントニオでは余裕がなく、一回だけ街の中をジョギングしただけでした。日本に戻る途中、ちょうど一晩のトランジットがロスアンジェルスであったため、太平洋を見るために朝の散歩をしたのが唯一の観光でした。太平洋の波は大きく、瀬戸内海を見慣れた目からするとちょっと恐怖でした。朝から多くの人が海岸でスポーツ(ジョギング、サイクリング、サーフィン等)をしていて、街の余裕を感じました。また、海に近い(が、津波が来なさそうな高台の)地域は超豪邸が立ち並び、歩くだけでビクビクしてしまいました。ホテルから空港へ、初めてUberを使って行こうとしたら、屋外でインターネットにつながらず、断念して普通にタクシーを呼んでもらいました。

夜明けの太平洋

13~15年ぶりに会う仲間もいた、パデュー大学ミニミニ同窓会

以上です。感想などありましたらお寄せください。

 

三井一鬼

近況のご報告

皆様、こんにちは。いつもお世話になっております。

2月末に愛媛県の今治市に住み始め、もうすぐ4か月が過ぎようとしています。たまには近況報告でもしないと、あいつは大丈夫か?ということになりそうですので、少し書かせていただきます。

今治は、目前に広がる瀬戸内海の穏やかな海景と、対照的に険しく凛々しい四国山地の遠景を持つ町です。少し足を延ばせばすぐに自然に触れることができ、仕事で疲れた時など癒されております。

気候については、まだわずかな経験しかありませんが、ジメジメした感じがほとんどありません。いまだに梅雨入りしていないのですが、もうそろそろのようです。

地面というのか、露出した土地は黄色っぽい砂でできているので、関東ローム層の赤土を見慣れた自分からすると不思議な感じがします。

買い物や飲食に出歩くことは最小限ですが、不自由を感じたことはありませんし、知り合いに聞く限りではなかなか凝った飲食店が少なからずあるとのこと。

というわけで、生活するには申し分のない場所です。

造船とタオルとサイクリングの町というのは、看板に偽りなしで、先日参加した造船所の見学会では、巨大な構造物に度肝を抜かれました。タオルに関しては、変哲のない小さな工場が町のあちこちにあり、これらが地道に今治ブランドを支えているようです。

圧巻の造船所

サイクリングはしまなみ海道がかなり有名になっていますが、愛媛県全体としてもサイクリングで町おこしをしており、サイクリストを意識したインフラ整備をあちこちで見かけます。私も週に何回かは自転車通勤をしており、大学が丘の上にあるので行きはつらいのですが、帰りは半分くらいの時間しかかかりません。ちなみに、愛媛県では条例で自転車に乗る人はヘルメット着用が努力義務となっており、毎朝自転車通学の高校生を見ているとほぼ100%が(今風のおしゃれな)ヘルメットをかぶっています。その状況に耐えきれず(?)、私もヘルメットをかぶってチャリを漕いでいます。

愛車です

新たに「本業」となった大学教員の方は、人生で初めて経験することばかりで、4月は正直なところ燃え尽きるかと思いましたが、徐々にペースがつかめてきました。助教は本来若い人がなるもののようですが、私としては何も大学教育や運営について知らないために、この地位からスタートできて良かったと思っています。

授業は今のところほんのわずかしか受け持ちがありませんので、その分他の先生のサポートや、研究室の仕事、自分の論文執筆等を行っています。今後は実習教科を担当することになりますので、多少は忙しくなるかもしれません。論文を書くことはいろいろな点で教員の必須事項で、この点、意識がかなり変わりました。この秋にある日本獣医学会、米国獣医病理学会に向けても、準備を進めています。

勤務先の大学には1,2年生しかいませんので、本来獣医大学の教員が担うべき負担をまだ全く経験していませんが、これから徐々に先輩教員や他大学の先生方に教えてもらいながら、準備していければと思います。

大学からの眺め

会社での診断業務は、本業に差し障りが無いように、帰宅してから出勤するまでの時間をやりくりして行っています。なるべく最新の知見を診断に盛り込んで、皆様のお役に立てればと考えております。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

三井一鬼

ミニ病理勉強会 第36回(最終回)

いつもお世話になっております。大雪になる(かも)という今日の東京は、雨すら降っておらず、天気予報のむずかしさを感じます。

本日2月9日(土)午前9時から、最後の勉強会を、ゲスト1名を迎えて行いました。

雄性生殖器

上記のQ&Aに加えて、明後日に「第2回 犬・猫の呼吸器勉強会」で講演予定の内容の予演会を行いました。喋りたいことがいろいろ出てきて規定時間を超過しましたが、本番ではピタッとおさまるようにさらに練習を重ねます。

足かけ3年に及んだミニ病理勉強会(ラウンド)において、良かったこと、悪かったことを自分なりに整理しますと…

良かったこと
・10年に一度くらいのペースで改訂される獣医病理学のバイブルを、わりと早い段階でアップデートできたこと
・数は少ないものの、バラエティーに富んだゲストに来ていただき、意見交換や、刺激を受けることができたこと

悪かったこと
・気軽に来られる勉強会にできなかったこと(予習を必須としたのはハードルが高かった)
・開催日時を弊社の都合にあわせたこと
・獣医病理以外のトピックをうまく盛り込めなかったこと

となります。今後、小グループでの勉強会を再び計画・実施する際には、重々気を付けます。

ともあれ、学会、セミナー、勉強会というと、無料にせよ有料にせよ、そのたった数時間や数日では到底理解しえないことを理解した気になってしまうことが害であると考えていますので、専門医を目指す者のガチンコの勉強スタイルを久しぶりに実践出来たのは有意義でした。まあ、読んだそばから忘れて行ってしまう悲しさもあらためて痛感しましたが…(そのためにQ&A集を毎回つくりました)。

皆様も、楽しく厳しく学べる勉強方法がありましたら、是非情報交換させていただければと思います。 → mitsui@no-boundaries.jpまで

今後とも、よろしくお願い申し上げます。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

ミニ病理勉強会 第35回

いつもお世話になっております。今年の冬は東京ではほとんど雨も雪も降らず、加湿器が大活躍しております。皆様も風邪には十分にご注意ください。

先日1月19日(土)に開催した勉強会は、ゲスト1名を迎えて、いつもどうり地道に取り組みました。写真は撮り忘れました。

卵巣・子宮 その2

上記のQ&Aに加えて、弊社で請け負った死後検査2症例(「飼主により医療事故と誤認された、び漫性肺胞傷害、心嚢血腫、糸球体腎症を呈した犬」、「小腸コクシジウム症と原因不明のリンパ球有意な上部気道炎および上部消化管炎を呈したトカゲ」)の検討を行いました。死後検査は重労働ですが、将来何かの役に立つことを信じて、こうして淡々と知見を積み上げていくのみです。

当勉強会の構造・やり方については、昨年3月17日の投稿をご覧ください。次回の第36回(最終回)は、2月9日(土)朝9時から開催予定です。予習範囲はPathology of domestic animals 6th edition、第3巻、p.465-510(雄の生殖器)です。なぜ雄の生殖器はたいてい教科書の最後あたりに来るのかわかりませんが、大事な器官であることに違いはありませんので、しっかり学びましょう!

東京での営業もあと1か月足らず。何卒よろしくお願い申し上げます。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

日本比較臨床医学会参加記

お世話になっております。去る12月2日(日)、神奈川県相模原市の麻布大学にて、第49回 日本比較臨床医学会 学術集会が開催され、参加しましたので、ごく簡潔にご報告いたします。

10時頃から16時過ぎまで、昼食休憩1時間を挟んで5時間ほどのこじんまりした集会で、参加人数は40名ほど。獣医大学(全ての大学ではない)の教員の方々、企業関係の方々、大学院生・学部生と思われる若い方々、そして自分のような(やや場違いな?)人間が参加していました。7題の研究発表は、動物やヒトの遺伝子解析が主題の発表が3題で、あとは自動血球計算機、過酸化水素水、イヌ骨髄由来間葉系幹細胞、高ナトリウム血症のイヌの症例について等、バラエティーがありました。いずれも普段自分が接することがほとんどない領域で、理解は完全ではありませんでしたが、興味深く拝聴しました。

衝撃を受けたのはシンポジウム「”基本的な臨床検査の信頼性”について 小動物臨床領域における取り組みの現状と課題」でした。座長のおひとり中島公雄先生の開会のお言葉の中に、「私は長年臨床検査技師をやってきて、獣医師免許を晩年に取得したが、獣医療における臨床検査の現状を見て驚いたことが3つある。一つめはヒトの測定試薬を使っていること。二つめはヒトの基準値を使っているか、動物の基準値を使っていたとしても学会や論文で定義されたものは存在しないこと。三つめは精度管理の概念がないことである。会場の皆様に怒られるかもしれないが、率直に言って、ヒトの臨床検査の50年前の状況が、獣医療における臨床検査の現状である」という趣旨のものがありました。

シンポジウム講演者お一人目の根尾櫻子先生(麻布大学)は、「小動物臨床領域における”基本的な臨床検査の信頼性”に焦点を当てる~小動物臨床領域における臨床検査の信頼性確保の取り組み(現状と今後)~」ということで、昨年行った関東5獣医大学の共同プロジェクト(同じ血液サンプルを各大学に持ち込んで測定)の結果発表(欧州でも発表されたそうです)や、精度管理に対する米国獣医臨床病理学会の取り組みやガイドラインの紹介、また、事前に参加者にアンケート用紙を送って得た回答を基にした討論を行われました。会場の企業関係者にも発言を促され、受託検査機関や測定機器メーカーの方々にとっては、商機であると同時にしっかりした枠組みを作っていかねばならないという使命感・責任感が(もしかしたら)植え付けられたのではないでしょうか。獣医領域における臨床検査の結果を担保し保証することについて、超えるべきハードルは高く、また、複数ありますが、取り組みが確実に始まっていることを目の当たりにできた、大変貴重な機会でした。

お二人目は自治医科大学地域医療学センターの小谷和彦先生で、「臨床検査の信頼性」という講演でした。まずは、従来「臨床病理」と呼ばれていた分野が今は「臨床検査医学」となっているそうで、獣医療においてなんとなくanatomic pathology(解剖病理学、形態病理学)とclinical pathology(臨床病理学)が混同されがち(先日も、私のところに細胞診標本が送られてきましたので、「私の専門分野ではありません」と丁重に臨床病理医を紹介させていただきました)なのも、このような再定義によって解消されるのではないかと思いました。さておき、小谷先生のご講演はヒトの臨床検査の現状や背景を網羅する大変興味深い内容でした。ヒトの検査においては「基準範囲」が複数あり混沌としているそうですが、その背景には「健常者の定義があやふや」(WHOの定義を採ると健康と自覚している人が健康になる。喫煙者は客観的には不健康だが、健康だからこそ煙草を吸う余裕が体にあるという意見もある。等々)、「試薬・キットのメーカーが複数ある」、「基準範囲をどのように運用したいかによってカットオフ値が変わる」等の事情があるそうです。だからこそ、内部精度管理(検査施設内部における検査の質の保証)と外部精度管理(統括団体が配布するサンプルを測定し、乖離がないか確認する)が非常に重要で、臨床検査技師もメーカーもそれぞれの現場で絶え間ない努力を続けているそうです。トレーサビリティーも重要で、一次校正物質、二次校正物質、実用校正物質、日常校正物質といって、何重にもわたって「自分が今行っている検査は本当に正しいのか」を検証できる枠組みがあるとのこと。翻って、われわれ獣医師のフィールドにおいて、内部と外部の精度管理をキッチリ行っている動物診療施設や検査機関はいったい全国でどれくらいあるのでしょうか。小谷先生のお話の中で、ちょうど今月1日から新しい法律が施行されるとのことで検索してみると、たくさんヒットしましたので、その中の一つ(記事)をご紹介します。

検体検査の品質・精度確保に関わる法令

ヒトの医療において、遺伝子検査という新しい領域がクローズアップされてきたことを含めた法改正のようですが、これだけたくさんの精度管理・書類作成をしないといけないとは、驚きです。私自身、非常に小さな動物病理検査会社を運営しているわけですが、標準作業書も作業日誌も存在しません(医療廃棄の記録や、診断検体についての受付記録・報告書(診断書)くらい)。獣医は緩いな~、ということで苦笑いするしかありませんが、将来的には変わっていくことになるのかもしれません。

小谷先生が「私のお話が、ヒトと動物の検査体制の50年のギャップを少しでも縮めるお役に立てれば」とおっしゃっていたのが印象的でした。そうです、問題が多々あることを我々獣医師が認識し、枠組みを作り、検査に携わる者が持ち場で努力すれば、人医や欧米獣医療との差を縮めることができると思います。頑張りましょう~~!(ややユル)

最後に、小谷先生に「病理検査の精度管理はどのようにされているのですか?」と質問したところ、「標準的な病気の病理切片を各所に配布して行っている」とのことでした。動物の病理の世界では、以前勤めていた外資系の会社で同じことをしているのを見たことがあります(米国内の診断医同士で)。日本の獣医病理分野において精度管理がどのように捉えられ、取り組まれているかについて、残念ながら私は状況を把握できていません。ただ、まずは、同業者が多く参加する研修会、学会、勉強会等に出て、他の獣医病理医と交流(バトルではない)し、「ああこんな風に診断するのか」「こんな視点があるのか」と切磋琢磨することが重要かと感じています。

以上、まとまりを欠きますが、未来への宿題をいくつもいただいた貴重な学会の参加報告を終わります。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井