今年もいつの間にかあとひと月ほどとなりました。皆様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
生きている動物、亡くなった動物、どちらも弊社の病理検査の対象です。病理検査によって明らかになった知見の中には、今までに誰も遭遇したことがないものや、多くの獣医師・学生にとって教訓になるものが少なからず含まれています。弊社では個人情報の管理を徹底しつつ、このような情報をできる限り論文や学会等で発信するように努めております。このたび、そんな一例として「犬の慢性胆囊炎(まんせいたんのうえん)」の論文を発表しました。下記URLをご覧ください。
https://www.mdpi.com/2076-2615/11/11/3324/htm
英文で、なおかつ専門用語が続くので読みにくいと思いますが、要約しますと、超音波検査で胆囊に異常が見つかる犬が昨今多いため、病理検査に提供された検体を顕微鏡を駆使して詳しく調べてまとめたものです。これは、多くの臨床獣医師が集うシンポジウムで4年ほど前に取り上げられたトピックで、まとめあげるまでにずいぶん長い時間がかかってしまいました(汗)。
研究で明らかになったことは、一見元気に暮らしている犬の患者さんの胆囊に超音波検査で異常が見られた場合、炎症がかなり頻繁に起こっているということです。今回の研究では、炎症の原因として細菌感染が疑われましたが、それだけでは説明しがたいことも多く、今後さらに取り組みを継続する予定です。慢性胆囊炎はヒトでも問題になっているため、犬の知見が医学にも何かヒントをもたらしてくれれば、とも考えています。炎症が起こっている胆囊の中には、別の胆囊疾患(胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)という、固くなったゼリーのようなものが充満する犬特有の病気や、急性胆囊炎、胆囊破裂等)を併発しているものも含まれていましたので、漫然と経過観察することはひょっとしたら危険かもしれません(この点は結論は出ておらず、世界を見渡してもいろいろな意見があります)。
今後も、獣医師や飼主様、なにより動物が普段悩まされている諸問題について、科学的な取り組みを続けてまいります。ご理解とご支援のほど、よろしくお願いいたします。
三井一鬼