2024年7月30日(火)、今治から往復8時間運転して大阪大学医学部を訪れ、『「次のいのちを守る」人材育成教育拠点事業 キックオフシンポジウム』に参加しました。大阪大学は全国に先駆けて「死因究明学コース」を大学院に設置し、関連の講義を世界で初めて展開するなど、死因究明人材の育成に取り組んでいます。本年10月1日に、同大学に「次のいのちを守る人材育成教育研究センター」が設置され、「死因究明人材育成好循環モデル」を国内の他の大学にも拡大していくそうです。獣医畑の私からすると、羨ましい限りの取り組みです。
このような取り組みの背景には、医学における法医学人材(死因究明の最前線で活躍する人たち)の不足や、医療現場での死因究明がなかなか進んでいない(診療科によってはすごく進んでいるが)ことがあるようです。大学、医療界、行政(文部科学省、厚生労働省、こども家庭庁等)等が認識を共有し、打開策を練り、したたかに実行に移している様を目の当たりにし、獣医界のはるか先を行っているなあと素直に感心しました。
獣医師のミッションや獣医界の構造は医療のそれとは大きく異なっており、産業動物(我々の食と命を支えてくれている動物)の分野では死因究明・疾病診断は体系化されていますが、「家族」と呼ばれる伴侶動物医療の分野では、なぜ動物が亡くなったのか、獣医師はそれほど追求しない(敢えてしないのか、したくてもできないのか…)風潮があります(もちろん、真摯に取り組んでいる方も多く知っていますが)。日本の毒性病理分野(毒性試験、医薬品開発等)でも、死因究明のしっかりした教育の枠組みは無いようです(関連の勉強会に出て感じる感想)。わが国には海外に似た獣医病理医の認定医制度がありますが、座学や組織診断偏重で、剖検診断の教育が欠落しているのも影響していそうです。医学分野における上記の先進的な取り組みを注視しつつ、我々獣医師ができること、やるべきことに地道に、長いスパンで取り組んでいかねばなあと思いました。
シンポジウムの後のノンアルコール懇親会で、出席の方々とお話や名刺交換もできました。中には、救急医から法医に転身しようとしている方もいらっしゃいました。人(特に高齢者)が亡くなることがルーチンのようになった現場で、命の大切さを見失いそうになったとおっしゃっていました。
たまには畑違いの場にひょっこり顔を出し、気付き、ヒント、人脈を得るのも悪くないものです。また、同様の機会があれば(誰に頼まれもしないのに)レポートいたします。
ノーバウンダリーズ動物病理 三井一鬼