暗記は悪いことじゃない!?

私がアメリカに留学していた時、獣医解剖病理研修医の同学年には白人(Caucasian)のアメリカ人2人と、インド人1人がいました。インド人の同僚に驚かされたのは、暗記力の強さです。寄生虫の名前はすべてラテン語で覚えていましたし(アメリカ人や日本人は、それぞれの通称名、たとえばcat roundwormや猫回虫と呼ぶのに対し、インド人はToxocara catiがスラスラ出てきます)、同じ本を読んでも片っ端から暗記していきます。そういう教育を受けてきたから、と言ってしまえばそれまでですが、「柔軟な思考」、「応用力」が尊ばれ、暗記せずともモバイル端末やインターネットで必要な情報がすぐに呼び出せる現代では、暗記力は特殊技能のように思えてきます。でもひしひしと思ったのは、暗記した情報を踏み台にして、より高いところに上っていくことができる、ということ。また、ときには、嫌でも暗記しておかないとイザという時に痛い目を見る事柄が、世の中には少なくないということです。

「ネンオシャチエブクトウバシメ」(9項目)

(燃料、オイル、車輪、チェーン、ブレーキ、クラッチ、灯火、バッテリー、締め付け)

これは20年以上も前に自動二輪の教習で覚えさせられたおまじないですが、今でもバイクに乗る前につぶやいて重宝しています。

弊社がおこなう動物の死後検査において第1のステップが病理解剖になりますが、目の前のご遺体に向かった瞬間から、解剖を終えて縫合・清拭が完了するまで、常に気を配っている項目があります。病理解剖が終わって報告書を書くときや、獣医師の先生や動物のご家族からの後々の質問・疑問に答えるとき、また、学術報告をするときに、「あの臓器、どんなふうだったっけ???」と頭を抱えたことが過去に何度もありました。そういった記憶ほど、後で頭の中で脚色・改竄され、とんでもない思い違いにつながるものであるということも学びました。とても痛いそんな経験を繰り返さないためには、瞬間瞬間に、目の前の物事を意識してとらえておくのが一番効果的だと思います。

「いっさいカタカタうちの色、におう分数おもてわり」(11項目)

(位置、サイズ、形、硬さ、内面/内容、色、におい、分布、数、表面、割面)

これは、アメリカの研修先の解剖室の壁に貼ってあって研修医や学部学生が覚えさせられた

OTeN DiSC SPaCeS(10項目) オーテンディスクスペイシズ

Odor(におい)、Tissues(組織)、Nmber(数)、Distribution(分布)、Size(大きさ)、Color(色)、Shape(形)、Position(位置)、Consistency(硬さ)、Section/surface(割面/表面)   小文字は意味なし

を日本語でアレンジした語呂合わせです。病理解剖だけでなく、日常の身体検査や、探査的開腹手術(試験開腹)の際にも応用できます。

獣医師の皆様、是非明日から、いっさいカタカタうちの色、におう分数おもてわり(11項目)を壁に貼って、休憩時間にどれだけ覚えられているかクイズを出し合ってみてはいかがでしょうか?くだらなく見える丸暗記ですが、きっと役に立つときが来ると思いますよ!