腫瘍学小テスト①解答②問題

いつもお世話になっております。天候に恵まれたゴールデンウイーク、皆様はいかがお過ごしでしょうか。私は体調を整えつつ、普段できないことができるいい機会となっています。

早速ですが、前回突然始めた小テストの解答と次の5ページ分からの出題です。この次、③になりますと分子生物学の領域に一気に踏み込みますが、獣医の腫瘍学ではかなり立ち遅れている部分かと思います。解答が危うい、勉強しなければ!と思われる方は、是非原著を購入して、辛抱強く読むことをお勧めいたします(私は出版社や著者とは何の利害関係もありません、念のため)。獣医療は守備範囲が広過ぎて知識が広く浅くなってしまうのは半ば宿命ですが、獣医師でなければ持ちえない視点を持つために、時には苦行をしてみるのもいいかもしれません(いつもしているよ!という声が聞こえてきそうです)。

腫瘍学小テスト① 解答

Q1.腫瘍組織を構成する2つの要素を述べよ。
A1.実質parenchymaと反応性間質reactive stroma(単に間質とも呼ぶ)。実質は腫瘍細胞によって、間質は線維結合組織、血管、炎症細胞によって構成されている。

Q2.良性腫瘍の挙動の特徴を述べよ。
A2.局所にとどまって増殖し、他の部位に広がらず、外科的摘出によって治癒する。良性腫瘍は転移しない。

Q3.悪性腫瘍の挙動の特徴を述べよ。
A3.近接組織への浸潤、破壊や、遠隔部位への拡散(転移)によって死をもたらす。

Q4.混合腫瘍mixed tumorとは何か?例を挙げて説明せよ。
A4.一つの腫瘍細胞が2種類以上の異なった細胞に分化している腫瘍。例として、犬の乳腺(ヒトの唾液腺)の混合腫瘍においては、軟骨や骨を含む粘液腫様の間質に、腫瘍性上皮成分が散見される。複合腫瘍complex tumor(乳腺等、腺上皮と筋上皮から成る組織において、両上皮成分が同時に腫瘍化しているもの)と混同されているので注意。

Q5.リンパ腫lymphoma、中皮腫mesothelioma、黒色腫melanoma、精上皮腫seminoma、このうち良性腫瘍はあるか、あるとしたらどれか?
A5.なし。すべて悪性。腫瘍の命名法の規則に沿わない、長年使われて定着してしまった診断名の例で、他にもいくつも同様の「容易に変えがたい誤用」がある。

Q6.過誤腫hamartomaは腫瘍?それとも非腫瘍?
A6.かつては非腫瘍性病変として-omaという命名に異論があったが、現在ではクローン性の染色体異常が発見されており、腫瘍とみなされている。

Q7.分離腫choristomaは腫瘍?それとも非腫瘍?
A7.非腫瘍。眼球角膜の分離腫(眼瞼組織が飛び地のように角膜に存在する状態。眼の表面に毛の生えた皮膚がある)が有名。

Q8.分化differentiationとは腫瘍細胞が形態的、機能的に起源細胞にどれだけ類似しているかを示す言葉だが(例:腫瘍細胞の分化度が高い、とは、元々の細胞と形態と機能がほぼ同じ)、分化が欠落した状態をなんと呼ぶか?
A8.退形成anaplasia。この語句が診断名に入る腫瘍(例:anaplastic carcinoma)は、入らない腫瘍に比べて悪性度が高い傾向がある。

Q9.次の細胞由来の悪性腫瘍の名前を和名と英名で述べよ。「横紋筋細胞」「肝細胞」「軟骨細胞」。
A9.横紋筋肉腫rhabdomyosarcoma、肝細胞癌hepatocellular carcinoma、軟骨肉腫chondrosarcoma。腫瘍の命名の規則については、出典書籍中の表を参照のこと。

Q10.腫瘍細胞の有糸分裂mitosesは、悪性腫瘍ほど頻繁である。真か偽か?
A10.偽である。良性腫瘍でも分裂頻度が高いことはよくある。より重要なのは、悪性腫瘍では異常分裂像(奇怪な形態の染色体や、三極、四極、多極の染色体)がよく見られるということ。有糸分裂像は数えられる現象なので、高倍率(x400)1ないしは10視野当たりの実数を記載するよう心がけること(あいまいな表現はトラブルの元)。

Q11. 上皮系腫瘍を悪性と判定する際の指標の一つに「極性の消失loss of polarity」があるが、これは腫瘍細胞の(  )が異常になっているという意味である。()内に適語を入れよ。
A11.オリエンテーション、方向性、配列、等の言葉が入る。上皮細胞は正常であれば何らかの秩序を保って「きれいに」並んでいるが、悪性腫瘍ではこれが乱れている。

Q12.センチネルリンパ節sentinel lymph nodeとは何か?
A12.領域リンパ節群の中で、腫瘍組織からのリンパ行が一番初めに流入するリンパ節。

腫瘍学小テスト②

出典 Robbins and Contran Pathologic Basis of Disease 9th ed. Chapter 7: Neoplasia. p.275-280, 2015, Elsevier.

Q1.腫瘍と環境要因の関係について。全世界のヒトの腫瘍の約15%は感染性病原体によって直接的、間接的に起こっていると考えられているが、一例として、ヒトパピローマウイルスが起こす腫瘍は何か?
Q2.腫瘍の多くは高齢になると発生するが、なぜか?簡潔に述べよ。
Q3.慢性炎症と腫瘍の発生には因果関係があるが、ヒトにおいて有名な、胃癌やリンパ腫の発生につながることがある慢性胃炎の原因菌は何か?
Q4.悪性腫瘍の前駆病変precursor lesionsとして化生、(   )、良性腫瘍の3種類が考えられる。( )に当てはまる語句は何か?またその実例を挙げよ。
Q5.以下の要因が引き起こす可能性のある腫瘍を、それぞれについて述べよ(和名、英名で)。肝炎、アスベスト吸引、膵炎。

以上です。

ノーバウンダリーズ動物病理
三井

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