いつもお世話になっております。(関東地方の)梅雨入りが遠くないと感じさせる今日この頃です。
腫瘍、という一つの病気のグループについて、ある獣医師の先生とともに英語の教科書を読み進めながらこの連載を続けていますが、あと3回ほどで終了する見通しです。その次は獣医法医学の本を読み進めていく予定ですが、どのようにやっていくかはぼちぼち考えることにします。私のあまり当たらない予想では、日本にも5~10年後には獣医法医学の波が(北米から)やって来るでしょう。来年のアメリカ獣医病理学会では獣医法医学にフォーカスしたプログラムが組まれるようです。動物の病気の診断・研究に加えて、人間と動物の関係の一つの暗い側面を獣医病理医がケアする時代に入っていくようです。
では、以下が前回の解答と今回の問題になります。
腫瘍学小テスト④ 解答
Q1.腫瘍抑制遺伝子は、正常な細胞の増殖にブレーキをかける重要な役割を果たしており、多くの腫瘍においてこのタイプの遺伝子に異常が見られる。その一つにRB(遺伝子なので本来はイタリック体)がある。RBに変異が起こると網膜芽細胞腫という眼球内の悪性腫瘍の発生につながるが、生まれつきRBに異常がある場合とそうでない場合ではこの腫瘍の発生リスクに大きな差があり、two-hit 仮説(Knudson仮説)と呼ばれている。この仮説を簡潔に説明せよ。
A1.「家族性」の網膜芽細胞腫は、一対の遺伝子の一方が生まれつき変異しており、第2の変異が生後に散発的に起こると発症する。「偶発性」の場合は、一対の遺伝子のそれぞれに生後に散発的に変異が起こると発生する。散発的な変異が2回起こる確率は低いため、家族性の網膜芽細胞腫は偶発性のそれに比べて1万倍も発生リスクが高いと言われている。
Q2.「ゲノムの守護者」の異名を持つTP53(イタリック体)という遺伝子は、p53というタンパク質をコードしている。正常細胞が腫瘍化するのを防ぐためにp53が担っている役割を4つ述べよ。
A2.細胞周期の「一時」停止、細胞周期の「永久」停止(老化)、DNA修復、アポトーシス。
Q3.( )という遺伝子(と、これがコードする同名のタンパク質)は「大腸腫瘍の門番」と呼ばれており、WNTシグナリングの重要な要素(この経路を抑制するように働く)である。括弧に入るアルファベット3文字の遺伝子名を述べよ。
A3.APC。adenomatous polyposis coliの略。
Q4.腫瘍抑制機能を持ちながら、血管新生や免疫回避等、腫瘍増殖に寄与する働きも持つ、いわば諸刃の剣のシグナル伝達経路とは何か?
A4.TGF-βシグナル伝達経路。
Q5.Li-Fraumeni症候群とは何か?
A5.TP53遺伝子の一方に生まれつき変異を持つヒトは、一般集団に比べて、50歳までに悪性腫瘍が発生する可能性が25倍高い。これはRBのtwo-hit仮説と同様に説明される。
Q6.細胞増殖経路のPI3K/AKTシグナリングを抑制する、ヒトのCowden症候群(過誤腫や良性腫瘍が皮膚や消化器に多発する疾患群)において変異しているとされている遺伝子は何か(アルファベット4文字)?
A6.PTEN(イタリック)。
腫瘍学小テスト⑤
出典 Robbins and Contran Pathologic Basis of Disease 9th ed. Chapter 7: Neoplasia. p.300-310, 2015, Elsevier.
Q1.Warburg効果(代謝)として知られる腫瘍細胞の特異な代謝は、細胞のエネルギー源となるATPの産生効率が格段に良い「酸化的リン酸化」よりも、細胞の増殖に寄与する「好気性解糖」(蛋白、核酸、アミノ酸、脂質等の生成につながる)に大きく偏ったものとなっている。このため、腫瘍細胞は活発に( )を取り込む性質があり、これを利用した、腫瘍の局在を調べる検査方法が( )である。初めの括弧に物質名を、後の括弧にアルファベット3文字の検査の通称を入れよ。
Q2.プログラムされた細胞死(アポトーシス)は、腫瘍化しかねない危険な細胞を取り除き生命を永らえるための重要な現象である。アポトーシスを引き起こす経路には外因性と内因性の2通りがあるが、それぞれの契機となるのはどのような出来事か?また、どちらの経路も最後は「(死刑)執行人」と称される物質を活性化するに至るが、この物質とは何か?
Q3.細胞が分裂を繰り返すうちに染色体の末端にある( )という特別なDNA配列が徐々に短くなり、そのうちこの配列が露出するとアポトーシスを起こしたり、分裂危機mitotic crisisに陥って細胞死を起こしたりする。腫瘍細胞の多くはこの配列を維持・修復する( )という酵素の産生が高まっており、死ににくくなっている。2つの括弧に入る言葉をそれぞれ延べよ。
Q4.腫瘍組織の中で、一本の血管が酸素や栄養を届け、老廃物を集めることができる範囲は、血管の周囲①1-2mm、②1-2cm、③5cmの領域である。正しいと思う番号を選べ。
Q5.腫瘍細胞が周囲の組織に浸潤したり、リンパ節、遠隔臓器へ転移したりするには、非常に多くのステップを踏まなければならない。その第一の段階では、腫瘍細胞同士の細胞間接着が緩む必要がある。結腸癌、胃癌、肺癌等のいくつかの上皮系悪性腫瘍では、( )という接着因子の機能が失われている。括弧に入る物質名を述べよ。
Q6.特定の腫瘍が特定の臓器に転移しやすいという現象をどう説明できるだろうか?あなたの考えを述べよ。
以上です。
ノーバウンダリーズ動物病理
三井